試合レポート

花咲徳栄vs春日部共栄

2019.07.27

花咲徳栄あわやもピンチを救った井上の2つの好返球

 5年連続甲子園を狙うCシード・花咲徳栄対春夏連続甲子園を狙うAシード・春日部共栄、この両雄が激突した準決勝、試合は前評判通りの好ゲームとなった。

 先発は花咲徳栄中津原隼太(3年)、春日部共栄村田賢一(3年)と両エースが登板し試合が始まる。

 とにかくこの試合のポイントは、強打の花咲徳栄打線に対し、春日部共栄・村田がどれだけ抑えられるかであった。だが、花咲徳栄打線は初回から春日部共栄・村田に襲い掛かる。

 初回、花咲徳栄春日部共栄・村田の立ち上がりを攻め立て、1番・池田悠真(3年)がライトスタンドへ先頭打者本塁打を叩き込む。これで面食らったか、動揺する春日部共栄・村田に対し、続く橋本吏功(3年)が死球で出塁すると、3番・韮澤雄也(3年)の所で花咲徳栄ベンチが動く。韮澤の所でエンドランを仕掛けると、韮澤は期待に応えセンター前ヒットを放ち、無死一、三塁とチャンスを広げる。続く井上朋也(2年)のショートゴロの間に2点目を奪うと、さらに5番・羽佐田光希(3年)がレフトフェンス直撃のタイムリー二塁打を放ち、早くも3対0とする。

 花咲徳栄の攻撃はまだ終わらない。続く中井大我(2年)のセンターフライが風に流されポトリと落ち、再度一死二、三塁とチャンスを広げるが、7番・田村大哉(2年)はショートゴロに倒れる。三走・羽佐田は挟殺され二死一、三塁で8番・中津原を迎える。中津原の打撃が期待できないと踏んだか、花咲徳栄はここでダブルスチールを仕掛けると、キャッチャーが二塁へ投げてしまったこともあり、これがまんまと嵌り花咲徳栄に4点目が入る。結局花咲徳栄は初回4点を奪うビックイニングを作り試合の主導権を握る。

 だが、このままでは終われない秋・春王者の春日部共栄が、ここから意地を見せる。

 2回裏、春日部共栄は、この回先頭の村田がライト越えの三塁打を放ち出塁すると、続く石崎聖太郎のセカンドゴロで1点を返す。3回裏にも、この回先頭の丸田輝(3年)が、レフト前ヒットを放ち出塁すると、続く森飛翼(3年)がきっちりと送り一死二塁、さらに1番・黒川渓(3年)のサードゴロの間に二走・丸田が三進する。ここで木村大悟(3年)はセカンドゴロに倒れるが、これをセカンドがエラーをし、春日部共栄に2点目が入る。さらに、続く平尾(2年)もライト前ヒットを放ちチャンスを広げ、一走・木村が三塁を陥れる。だが、ここはライト井上のストライク送球の前に刺され、この回の反撃を1点で終える。タイミングや狙いは悪くはなかったが、続く打者は4番・村田であっただけに、ここは自重する選択肢もあったか。

 それでも、春日部共栄は裏攻めで2点差とワンチャンスで追いつける。しかも、エース村田が2回以降は立ち直り花咲徳栄打線を無失点に抑えており、反撃の機運は高まる。

 春日部共栄は、4回裏にも、この回先頭の村田がセカンドへの強襲ヒットで出塁するが、続く石崎はショートゴロを放ち併殺かと思われた。だが、今度はショートがエラーをし、オールセーフで無死一、二塁とチャンスが広がる。6番・平岡大典(3年)がきっちりと送り一死二、三塁とすると、続く片平進(3年)がライトへ犠飛を放ち1点差とする。

 こうなると、流れは春日部共栄である。5回裏にも、この回先頭の森がライト線へヒットを放ち出塁すると、続く黒川がきっちりと送り一死三塁とする。二死後、3番・平尾がセンター前タイムリーを放ち、春日部共栄がついに4対4の同点に追いつく。

 押せ押せムードの春日部共栄は、続く村田もセンター前ヒットを放ち、二死一、二塁とチャンスを広げると、続く石崎もライト前ヒットを放つ。ついに逆転かと思われたが、ライト井上がまたしても本塁へストライク送球を放り、二走・平尾は本塁憤死し春日部共栄は同点でこの回の反撃を終える。

 花咲徳栄の先発・中津原はここでお役御免かと思われたが、花咲徳栄ベンチは中津原を続投させる。これがどう出るかと思われたが、追いつかれ開き直ったか、中津原は6回、7回と春日部共栄打線を三者凡退に抑える。

 一方、花咲徳栄は初回以降、2回表、4回表、6回表と出た走者をバントで確実に進め、次の1点を狙う堅い攻めを見せていたが、得点を奪えず我慢の戦いが続いていた。

 そして迎えた8回表、ついに試合が動く。


 花咲徳栄は、一死から5番・羽佐田がライト前ヒットを放ち出塁すると、続く中井の所での花咲徳栄ベンチはエンドランを仕掛ける。だが、中井はセカンドゴロに倒れ、二死二塁となる。8番・田村を迎えた所で、まず花咲徳栄ベンチはネクストバッターボックスに中津原ではなく吉倉英俊(3年)を待機させる。一方の春日部共栄ベンチは、おそらく中津原を代えて欲しかったのであろう。この日2安打とタイミングの合っている田村を敬遠し、二死一、二塁で代打・吉倉との勝負を選択する。

 ここでちょっとした勝負のアヤがあった。村田はまず吉倉の所で、外への変化球が大きく跳ね、二走・羽佐田が三進し二死一、三塁としてしまう。さらに、二死フルカウントとしてしまい、一走・田村が自動スタートとなる。その状況で勝負強い吉倉は、三遊間へのゴロを放つ。ショートは当然に二塁へは送球できず、やむなく一塁送球するが、これがセーフとなり花咲徳栄に貴重な1点が入る。

 これで息を吹き返した花咲徳栄は、最終回やや疲れの見え始めた春日部共栄・村田に対し、再度襲い掛かる。

 9回表、この回先頭の池田がレフト前ヒットを放ち出塁すると、続く橋本吏がきっちりと送り一死二塁とする。二死後、4番・井上がライト前タイムリーを放ち2点差とする。これでやや気落ちした春日部共栄・村田に対し、続く羽佐田がレフト前ヒットを放ち二死一、二塁とすると、6番・中井も死球を選び二死満塁とチャンスを広げる。最後は7番・田村がライト前タイムリーを放ち7対4とし試合を決めた。

 投げては6回以降、中津原、高森陽生(2年)のリレーで春日部共栄打線をノーヒットに抑えた花咲徳栄が、事実上の決勝戦とも呼べるライバル・春日部共栄との大きな一戦を物にし、5年連続の甲子園へあと1勝と迫った。

 まず、敗れた春日部共栄だが、勝てるチャンスは十二分にあった。初回4失点から始まりどうなることかと思われたが、5回までに同点に追いつき、ヒット数も5回まで両者9本ずつと互角であった。いや、相手にエラーが出ていることや追いついた勢いや裏攻めであることを総合すると、この時点ではむしろ春日部共栄に分があった。ここ数年の直接対決で一番花咲徳栄を追い込んだ試合であったと言っても過言ではないであろう。だが、ゲーム後半は一本が出ず、ちょっとした差で勝ち越され最後は村田が力尽き敗れた。悔やむべくは初回、センターが目測を誤りヒットにしてしまった場面や、ダブルスチールを決められ余計な点を与えてしまった所か。これで、勝負年であった春日部共栄の夏は終わった。現チームは3年生が多いため、新チームは一からとなるが、平尾を中心とし、ライバル・花咲徳栄を倒せるチーム作りを目指してもらいたい。

 一方の花咲徳栄だが、この日は初回最高のスタートを切りながら、途中内野守備が乱れ流れを失うという今春の東農大三戦のような負けパターンに陥っていた。それでも、何とか食い止め勝ち切ることができたのは、ライト井上の二度に渡る好返球と、勝負所でキャプテン吉倉がもぎ取った内野安打によるものが大きかった。これまで大勝ばかりであった花咲徳栄にとって、追い詰められながらこの一戦を物にした意味は大きい。4番・井上が本来の出来ではないのはやや気になるが、それでもダブルスチールなどの細かいプレーで1点をもぎ取る、負けにくいチームであることを改めて示した花咲徳栄が、5年連続の甲子園まであと一勝と迫った。

(文=南 英博

2019年 第101回全国高等学校野球選手権大会埼玉大会
■開催期間:2019年7月10~7月28日(予定)
■組み合わせ表【2019年 第101回全国高等学校野球選手権大会埼玉大会】
■展望コラム【今年の埼玉は大混戦!シード校の戦力とシードを脅かすノーシードを徹底紹介!】

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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