向上vs湘南学院
野手の人材が豊富な向上 組織力の高さを発揮しベスト8へ!
先発・福島(向上)
桐蔭学園を破った向上と、毎年上位に顔を出す日大高を破り4回戦へコマを進めた湘南学院の一戦。向上は3回戦で桐蔭学園の投手陣を攻略した打撃力を投手力が高い湘南学院相手にも発揮した。
湘南学院の先発は福島勇世。昨夏の時点から135キロ前後の直球を投げていた本格派右腕。この試合でも130キロ中盤~138キロと130キロ後半を何度も計測しており、平均球速は上がっている。夏には140キロも見込めるだろう。
ただ気になったのはスライダーやチェンジアップなどが高めやベルトゾーンに集まっていること。向上打線はそれを見逃せなかった。
5番赤城昂太郎が四球で出塁し、6番小泉瑛輝はバスターエンドランを仕掛け、見事に右前安打を放ち、さらにバッテリーミスで二、三塁とチャンスを広げ、一死二、三塁から8番・松村青の右前適時打で2点を先制。さらに二死となって1番岡崎大輝が高めに入ったストレートを逃さず、打った瞬間、本塁打と分かる鋭いライナーでレフト席へ飛び込む2ランで4対0。さらに3回表には二、三塁のチャンスから敵失で2点を追加し、6対0とする。
向上の先発は昨日に引き続き、松村が先発。コンパクトなテークバックから大きく胸を張って振り下ろすオーソドックスな右投手。ストレートのスピードは125キロ~128キロと決して速くないのだが、両サイドへの投げ分けがしっかりしていて緩いカーブや120キロ近い縦スライダー、スライダーを低めに投げ分ける。特にストレートとほぼ変わらない軌道で落ちる縦スライダーは見極めが難しく、湘南学院の打者は泳ぎ気味になりながら打ちに行く打球が多かった。
試合は7回裏、湘南学院は一死一、二塁から1番相川が甘く入ったスライダーを捉え、レフトの頭を超える二塁打を放ち、2点を返したが反撃はここまで。向上がベスト8進出を決めた。
向上は野手陣のレベルが高い。逸材野手の顔ぶれを次ページで紹介したい。
本塁打を放った岡崎(向上)
特に岡崎、赤城の二遊間コンビの実力の高さは素晴らしいものがあった。本塁打を放った岡崎はスクエアスタンスで構え、左足を挙げたとき、バットと同時に右ひじを上げるヒッチの動作をしてから、トップに入る独特の打撃フォーム。そこからインサイドアウトで振りに行く選手で、コンタクト力は非常に高いものがある。二塁守備を見ると、基本忠実でありながらスピードが速い。ボールを正面で見るのではなく、若干斜めに見ることで、バウンドの動きを冷静に見極め、イレギュラーバウンドにも処理している。
2年生の時から攻守でセンスのある動きを見せていた赤城はこの1年で磨きがかかっていた。打撃面ではバットを立てて構えて、始動を早めにして、インサイドアウトのスイングでボールを捉える。コンタクト力も高く、スイングも鋭い。遊撃守備ではシートノックから素早い動きを見せ、試合に入っても、鋭い打球を次々とアウトに決める。そして、素晴らしかったのは8回裏、無死一塁の場面で4番菊池健太が放った打球は二塁ベース寄りに転がる。センター前ヒットになるかと思われた打球を赤城が横っ飛びでキャッチ。そこで終わらず、赤城は二塁・岡崎にグラブハンドトス。岡崎は素早い1回転スローで見事に併殺を決め、このプレーにスタンドはどっと沸いた。
赤城以外では3番・国崎澪のバットコントロールの高さが光った。1回表、低めのチェンジアップを捉え中前安打を放った当たりは強烈。さらにその後の打席も左投手の変化球を捉え中前安打と、右、左問わず高いバットコントロールの高さを発揮できるアベレージヒッターだ。国崎が良いのはインパクトの直前まで軸がぶれずしっかりとボールが見えていること。すぐにバットを出す形が身に付いていて、さらにボールが見えているので、ポイントも広い。レフトながらバックホームの返球も鋭い。今後の進化が楽しみだ。
向上はシートノックから意識の高さが伺え、内野ノックの最中、ボールを受ける捕る選手だけではなく、次の出番を待つ選手も空ノックという形で、ボールを受けてイメージをしている。その空ノックで魅せる流れるような動きを試合の中で表現できているのが素晴らしい。
外野手も多くの選手がワンバウンド返球、ダイレクト返球ができており、肩も強く、スピード感がある。守備以外でも盗塁を仕掛けて、相手を崩す様子が見られ、先のプレーを考えてプレーができている。組織力の高さが表れており、桐蔭学園を破ったのも十分にうかがえる試合内容だった。
敗れた湘南学院はエースで主将の古謝は2安打を放つ活躍。シャープなスイングから繰り出す打球は鋭く、レフトの守備は泥臭さが見られた。強打で切れの良い動きを見せる4番菊池などポテンシャルの高い選手は多かった。夏まで見逃せないチームだ。
(文=河嶋宗一)