花咲徳栄vs上尾
花咲徳栄、県勢初の4年連続甲子園出場!
34年ぶりの甲子園を目指す上尾が10年ぶりに決勝進出ということもあり、会場は案の定上尾ホームの雰囲気となる。そんな中、花咲徳栄がチャンスを確実に物にし、粛々と勝ち切った。そんな印象を受けた試合であった。
上尾・木村歩夢(3年)、花咲徳栄・野村佑希(3年)と両エースが先発したこの試合、ホームの大声援を背に序盤ペースを掴んだのは上尾であった。
まず初回、上尾は花咲徳栄・野村の立ち上がりを攻め立て、先頭の小川竜太朗(3年)がセンター前ヒットを放ち出塁すると、続く原勇輝(3年)がきっちりと送り一死二塁とする。ここで3番・日野吉彬(3年)がライト前タイムリーを放ち幸先良く1点を先制する。
一方の花咲徳栄もその裏、上尾・木村の立ち上がりを攻め二死から3番・韮澤雄也(2年)がレフト前ヒットを放ち出塁すると、続く野村もサード強襲ヒットを放ち二死一、二塁とする。だが、後続が倒れ無得点に終わる。
花咲徳栄は2回裏にも二死から8番・新井英一(3年)が死球で出塁すると、続く田谷野拳世(3年)がセンター前ヒットを放ち二死一、三塁とチャンスを広げる。だが、後続が倒れまたしても無得点に終わる。
そして迎えた3回、ここがこの試合の勝敗を分ける重要なイニングとなった。
上尾は3回表、先頭の内山龍我(3年)がレフト前ヒットを放ち出塁すると、続く小川のサードゴロをサードがファンブルし無死一、二塁と追加点を挙げる絶好のチャンスを掴む。だが、2番・原勇輝のバントがキャッチャーへのファールフライとなり失敗に終わると、後続も倒れ絶好のチャンスを逸する。
花咲徳栄サイドとすれば1,2回とチャンスを逸しており、ここで追加点を失うと会場の雰囲気もあり、やや平常心を失いかねない所であったが、ここを乗り越えて、打順はこの回二巡目を迎える。いよいよエンジンがかかり始める。
花咲徳栄は3回裏、この回先頭の杉本直希(3年)が三塁線を破る二塁打を放ち出塁すると、続く韮澤がきっちりと送り一死三塁とする。ここで4番・野村は凡退するが、二死後、続く羽佐田光希(2年)が右中間を破るタイムリー二塁打を放ち1対1の同点とする。
同点とし落ち着きを取り戻したか、花咲徳栄は4回裏にも一死から8番・新井がファーストゴロエラーで出塁すると、続く田谷野がきっちりと送り二死二塁とする。ここで3巡目を迎えた花咲徳栄打線は1番・橋本更功(2年)が右中間へタイムリー二塁打を放ち1点を勝ち越すと、続く杉本直希(3年)もレフト前タイムリーを放ち3対1とし、徐々に木村を捉え始め試合の主導権を握る。
こうなってから強豪校を打ち負かすのは難しい。中盤以降上尾は防戦一方となるが、それでも木村は懸命に粘りの投球を見せる。
5回裏も花咲徳栄は一死から5番・羽佐田がレフト前ヒットを放ち出塁すると、続く倉持賢太(3年)もライト前ヒットを放ち一死一、三塁とチャンスを広げる。ここで7番・井上朋也(1年)が追い込まれると、花咲徳栄ベンチは一走・倉持とのエンドランを仕掛けるが、木村が強気のインコース攻めで井上を詰まらせ、ショートライナー併殺に終わり無得点に終わる。
だが7回裏、花咲徳栄はこの回先頭の杉本が死球で出塁すると、続く韮澤がきっちりと送り一死二塁とする。4番・野村を迎えた所で、木村がワイルドピッチを放り一死三塁とする。このあたり、もう木村の限界が近づいていたのであろう。案の定、野村がレフト前タイムリーを放ち4対1とし試合の大勢は決した。
投げては、4回以降野村が丁寧なピッチングを見せ、結局上尾打線を4回以降の6イニングを2安打5奪三振無失点に抑える好投を見せる。
結局花咲徳栄が4対1で上尾を退け4年連続となる甲子園進出を決めた。
まず上尾だが、公立高校が強豪私学を倒すのにはいくつかの条件が必要である。まず、ピッチャーがインコースをきっちりと投げ込んだ上で、無駄な四球を出さないことだ。逃げたらやられる。この点はクリアしていた。この試合木村はこれまでの疲労を物ともせず素晴らしい投球をしていた。
次に守備が強豪私学の早い打球に対してもしっかりと守りノーエラーで乗り切ること、それは外野の守備位置なども含めてのことだ。この点はどうか。この日2エラーが出てしまい、そのうちの一つが失点に絡んでしまった。そして一番大事なことは少ないチャンスを確実に物にし、先にできれば相手の攻撃が限定されるくらいの複数点のリードを奪うことだ。
そのチャンスが3回表にあっただけに悔やんでも悔やみきれない3回表のバント失敗となってしまった。とはいえ、昨夏初戦で浦和高校に敗退したことを考えれば、今大会の上尾は良く戦ったのではなかろうか。新チーム結成時を考えても決して前評判の高いチームではなく、それを選手達は分かった上で、チームのまとまりを重んじ、一戦一戦大振りせず謙虚に戦っていた。まずはやり切った選手達を讃えたい。
一方の花咲徳栄だが、この日は堅く丁寧に勝ちに行った印象を受ける。それがこの日は結果としてうまく行った。昨夏全国制覇のチームという、勝って当たり前の見えないプレッシャーがある中で一歩一歩着実に歩みを進めていった。それはどっしりしている岩井監督の存在も大きいであろう。いずれにせよ、埼玉大会を突破し、これからは夏の甲子園連覇という新たなチャレンジが始まる。
だが、昨夏とは編成がだいぶ異なる。夏の経験者が多かった昨夏のメンバーと違い、今年のチームは主砲・野村こそ残っているが、スタメンは1,2年生が4人という若いチームだ。今後の事を考えるとまずはチャレンジャー精神で一戦一戦戦う事であろう。若いチームであるだけに勢いに乗ると面白いが、打線の爆発を考えても今大会不発だった野村がメインで投げるのはいかがなものか。
だが、そうなると、中田優斗(3年)や岩崎海斗(2年)などその他の投手が4回戦以降ほとんど登板していないという不安要素も残る。野村をどう使うのか、特に初戦だが岩井監督は難しい舵取りを求められるであろう。
(文=南 英博)