松山聖陵vs松山商
未熟でも「徹底」貫いた松山聖陵
中村 有(松山聖陵)
聖地に衝撃を与える4発で大阪桐蔭が5年ぶり2度目の優勝を果たし幕を閉じたセンバツ。その一方でセンバツ3敗に終わった四国地区の内容も衝撃的であった。
四国内とは別次元の打撃力・投手力・そして守備力。高知中村は実力を出しきって前橋育英に健闘したが、守備力は同等以上に渡り合った明徳義塾ですら早稲田実に最後、自ら崩れて競り負けた事実は非常に重いものである。
昨秋四国大会準優勝で48年ぶり2度目のセンバツ出場を果たした帝京第五もまた然り。作新学院に序盤から失点を重ね、攻撃では「見極め」もできず。自分たちの戦いを全くできぬまま敗れ去った。「夏までに何から手をつけたらいいのか?」一勝はおろか、1点を取るのも四苦八苦する事実には絶望感すら漂う。
しかし、センバツ決勝戦翌日に行われた春季愛媛県大会決勝戦。その糸口は確かにあった。
まずは18年ぶり3度目の春季愛媛県大会優勝を果たすと同時に、2年連続3度目の春季四国大会出場を決めた松山聖陵。この春季県大会では準決勝で昨秋四国大会ベスト4の済美を延長11回で撃破。すでに夏の愛媛大会第1シードが確定している帝京第五。第4シードが確定した宇和島東の中に割って入り、済美との第2シード・第3シード争いに入ることになった(あと2勝すれば第2シード)彼らの原動力は「徹底」である。
投手では中村 有(2年・右投右打・178センチ65キロ・沖縄市立美東中出身)。昨秋県大会では20人の登録メンバーにすら入らなかった背番号「1」は、腕の長いインステップスリークォーターの特性を活かした「甘いところに投げない」を徹底。2回表に先制点を許しても慌てず113球8安打1四死球4失点で公式戦初完投を飾ってみせた。
優勝旗を受け取る佐々木主将(松山聖陵)
打線も「初球から甘いボールを打ちにいって」4回裏一死満塁からライトへの走者一掃三塁打、6回裏にも二死三塁から試合を決める中前適時打を放った2番・川崎 貴央(3年・左翼手・右投左打・168センチ63キロ・伊予三島リトルシニア出身)を筆頭に好球必打を徹底。これには「チーム全体として踏ん張れて、攻撃につなげられた」と荷川取 秀明監督も一定の評価を与えている。
昨秋中予地区代表決定戦に続き松山聖陵に敗戦。12年ぶり14度目の優勝と5年ぶり18度目の春季四国大会出場を逃した松山商にも光明はあった。4回裏に6点を失った後も重澤 和史監督と誓った「最後まであきらめず、手を緩めず」を徹底。最終回に6番の元気印・池内 海斗(3年・一塁手・右投左打・178センチ80キロ・松山市立勝山中出身)の左中間突破適時三塁打などで奪った2点は、その成果が如実に表れたものだ。
なお、入川 翔(2年・右投右打・173センチ76キロ・今治中央ボーイズ出身)、山本 寛大(3年主将・右投右打・172センチ67キロ・伊予市立伊予中出身)、奥野 慎也(2年・右投右打・173センチ76キロ・松山市立三津浜中出身)の3人を外野手兼務で回した松山商投手陣は、松山聖陵戦こそ与四死球「7」と乱れたが、準々決勝の今治東戦ではローボールを徹底し与四死球「0」、準決勝の川之江戦でも与四死球「1」。これもノーシードで迎える夏の愛媛大会に対する大きな指針となるだろう。
客観的に見ればこの試合でも技術的・戦術的未熟さが随所に目立つ展開。「野球王国」新生は遥かなる道のりと言わざるをえない。ただそれでも、四国野球の特性を活かさなければ差はますます広がるのみ。昨夏甲子園での鳴門(徳島)ベスト8・明徳義塾(高知)ベスト4につなげる第一歩はこの日、松山聖陵と松山商が見せた「徹底」。これしかない。
(取材・写真=寺下 友徳)
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