八王子vs都立小松川
新生・八王子を引っ張るエース・早乙女大輝の存在感の大きさ
先発の植井拓臣(都立小松川)
夏甲子園出場の八王子。この試合を見ると手探り、手探りで戦っているように見えた。率いる八王子の安藤監督によると、新チームスタートが遅れたことで、夏休み期間で出来たことがなかなかできず、公式戦で試している段階だという。
「一つは戦術ですね。去年の選手と比べると、まだこちら側から動かさないといけません。こういう戦術は簡単に出来上がるものではないので、公式戦の中で完成度を高めている段階です。そしてまだ選手が固定してきれていないということ。これもいつものならば、夏休みの練習試合の中で軸となる選手を定め、そしてポジションも固めているのですが、まだそれも固まっていないんです」
と語るように、八王子は選手起用でもいろいろなポジションを試しており、遊撃に出場していた加藤は前の試合では遊撃、一塁手の渡部は前回の試合では捕手で出場していたようにいろいろなポジションを試している段階である。
そして盗塁、エンドラン、バスターエンドラン、セーフティスクイズとまさに多彩な攻めがウリの八王子。西東京の頂点に立った前チームと比べると完成度は低い。
2回表には、5番高橋が中前安打、さらに盗塁を決め、そして一気に6番雨宮の中前適時打で1点を先制すると、7番熊沢の右中間を破る適時二塁打で2点目をとった速攻劇はさすがと思わせたがその後、走者を出してもあと1本が出なかったのは都立小松川の先発・植井拓臣の投球に苦しめられたからだ。
植井は夏も経験している投手で、躍動感のある動きができる投手で、投球フォームを見ていても力強さがある。始動から足上げ、フィニッシュまでの動作が滑らかな投手で、ストレートも常時125キロ~132キロを計測しており、球速表示以上に勢いを感じさせるストレートを投げ込むことができている。120キロ近いスライダーが低めに決まっており八王子打線はこのスライダーに手を焼いていた。
八王子の安藤監督は「あのスライダーを見逃して、甘い球を振り抜くことができるか。スライダーを打ってしまうのは、それを見極めるだけの技術、自信がないこと。たとえ高めに浮いた球を狙いに定めて、低めを見逃して三振になっても、たとえ打っても快打にならないから仕方ないんです。
だけど結果が欲しい時期なんでしょうね。何でも打って凡打になってしまう。凡打の内容でも中身が違う。まだそういうところを我慢できないのが課題で、それは重ねながらやっていくしかありません」
相手監督を嘆かせるぐらい植井のスライダーは素晴らしかったともいえるし、そのスライダーを生かすべく、やはりストレートを磨くことが大事になるだろう。
早乙女大輝(八王子)
こういう手探りの中でも、戦えているのはエース・早乙女大輝の存在が大きい。早乙女は甲子園後、首脳陣と話し合って、小手先の技術よりも、しっかりと体を作ろうと、下半身中心のトレーニングを多めに行ってきた。ブルペンで投球練習よりも、走ったり、トレーニングする時間を多く取ってきた早乙女。その取り組みの成果はしっかりと出ていて、立ち上がりから132キロを計測。今まで120キロ~125キロ程度だったので、いきなり130キロ台を計測したのは非常に驚かされた。
その後も常時125キロ~120キロ後半のストレートを軸に都立小松川打線を抑えていく。球速アップを実現したことで、同じ125キロでも、ストレートの勢いが全く違う。早乙女は安藤監督に、この時期はしっかりとストレートを捉えられる打者が少ないから、ストレートで押した投球を指示されたようだが、それができるのも早乙女のストレートがあってこそ。6回まで無安打に抑えるピッチングで、7回裏に初安打を許したがそれでも早乙女は落ち着いていた。終盤に再び力を入れると、120キロ後半~130キロ前半の球速をコンスタントに計測。
9回裏に自己最速の135キロを計測。今まで120キロ台が多かった早乙女だったので、130キロ台前半のストレートを投げ込む姿を見て、これまでのイメージが一変するような投球内容であったことは間違いない。
ストレートが速くなっても力むことはなく、内外角に投げ分けながら要所で110キロ後半のスライダー、90キロ~100キロ台のカーブを織り交ぜながら、都立小松川打線を1安打に抑え完封勝利。球数は101球。安定感抜群の投球であった。
八王子は手探りをしながら勝っていけるのもエース・早乙女の力があるからだろう。本大会進出を決めた八王子は、秋までしっかりと戦力を固めることを重点的に取り組んでいくという。
またエースの早乙女は「今までは後ろに先輩がいましたけど、今は自分が引っ張るつもりで投げたい。都大会へ向けてさらに調子を上げていきたいです」と意気込みを語った。
早乙女がいる限り、この秋も八王子は有力校として語られるのは間違いない。秋の本大会では、投打ともに一段と成長した姿を見せ、二季連続の甲子園を目指せるチームとなることができるか注目をしていきたい。
(文=河嶋 宗一)
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