試合レポート

履正社vs浪速

2016.07.28

寺島だけではない…まさに逸材揃いの履正社が浪速を攻守で圧倒

 今年の履正社は全国的に見てもトップクラスのチームと見られているのは、高校生左腕ナンバーワン左腕と呼び声が高い寺島成輝がいるからだと思うが、それ以外の選手たちのレベルも高い。比較対象に挙がる横浜と比べるとガンガンホームランを打つ重量打線ではない。だが二塁打、三塁打を多く飛び出し、ここぞという場面でホームランが出る。そんな嫌らしいチームなのだ。

 それが存分に発揮された試合だった。1回裏、二死一、二塁の場面で、5番井町太生(3年)がやや泳ぎ気味に変化球を捉えながら打った打球は広い[stadium]舞洲球場[/stadium]のフェンスを楽々超える3ランホームランで3点を先制する。井町は体勢が崩れているように見えても、ギリギリで踏ん張り、インパクトの瞬間で、きっちりと腰を鋭く回転させることができる選手なので、想像以上に打球を飛ぶのだ。

 そして履正社の投手陣を支える井町は寺島の速球に力負けしないキャッチングができていて、何より寺島や山口裕次郎の持ち味を引き出すことができる選手。寺島も山口もストレートが素晴らしい投手だが、そのストレートを最大限に生かせる捕手なのだ。 ストレート一辺倒かと思えばスライダーで外すなど、駆け引きが優れていて、さらにスローイングタイム2.00秒前後を計測する強肩も見逃せない。

 3回表には1点を返されたが、3回裏には8番若林健治が左中間を破る適時二塁打を打って、2点を追加する。若林健も8番だが、履正社だから8番を打っている選手で、普通のチームならば、1番~3番を打っていてもおかしくないぐらいの巧打力、スピードを持った選手。インパクトまで最短距離で捉えたバットスイング。そして守備範囲の広さを誇るフィールディングと攻守で優れた選手なのだ。 


  その後、相手のバッテリーミスで1点を追加するなど、追加点を加えていった履正社。7回裏に1番を打つ福田観大(3年)の適時二塁打でサヨナラ勝ちを決めた。履正社の選手は打つ打球が実に鋭いのだ。

 6番を打つ若林将平(2年)。来年以降、4番を打つ安田尚憲とクリーンナップを打つであろう選手。特に凄いのが打球の速さ。2回裏に、遊撃手強襲の打球を放っていたが、その打球の速さが尋常ではなかった。またこの後の打席でも左中間を破る二塁打を放っているが、体格の良さ、スイングスピードの速さと角度が上手く伴えば、本塁打を連発してもおかしくないだろう。若林将は、この試合は常に鋭い打球を打っていたが、それは、スクエアスタンスで構える姿が力みがなく、さらに投手をしっかりと見据えた構えなので、上手くボールが見えていること。さらにしっかりとトップを取ってから無駄なくインパクトを迎えるスイングができているので、しっかりと強い打球を打つことができている。ぜひ準決勝以降、注目していただきたい打者だ。

 さらに7番を打つ山本侑度(3年)も広角に打ち分ける右の強打者で、この試合はチャンスメイクに徹した。彼は野茂ジャパン経験者の1人だが、最終学年にきて大きく伸びていった選手だ。ストレート、変化球にも柔軟に対応し、しっかりと打ち返せる打者で、角度さえ伴えば本塁打も期待出来る選手。打球が鋭く、7番を打つ打者ではない。またガッツある外野守備も魅力的な選手。

渋いけれども、それぞれの個性を持っているのが今年の履正社ナインなのだ。


  さて最後に紹介するのが7回1失点6奪三振の快投を見せた山口裕次郎の投球に迫りたい。近畿大会でも筆者のガンで145キロを計測したが、まだよい時のストレートと、そうでもないストレートにかなりばらつきがあった投手だが、しっかりと調整を努めてきたのか、ベストボールを常に投げられるようになってきている。テークバックをゆったりと取ってから、スリークォーター気味に腕を振って、腰も一気に回転させるフォームがかなりなじんできたのか、意図通りに投げられるようになった。ストレートはコンスタントに、136キロ~141キロを計測し、140キロ以上は20球を計測。この試合、走者を背負うことは多かったのだが、山口は動じる様子は全くなかった。打者の懐、あるいは高めへ140キロのストレートが決まり、そして時には120キロ~125キロ前後のスライダーが決まって三振を奪うなど、メリハリがついた投球ができていた。

 そして7回表、二死二塁の場面で、141キロ、143キロを球速を上げて追い込んだ山口は最後、外角高めのストレートで空振り三振。このストレートが本日最速の145キロを計測した。以前と比べてもストレートに重量感が加わって、このストレートは寺島とそれほど変わらないのでは?と思うものであった。今年は全国的にも好左腕が多いが、ストレートのボリュームは今年の高校生左腕でもトップクラスのモノがあるのでは?と思わせる投球だった。180センチ87キロとエンジンの大きさが違う。このエンジンにしっかりと技術を詰め込んだ時、かなりスケール感のある本格派左腕になるのでは?と思わせる投手だった。

 ただ山口は取材時でも感じたがかなり自己採点が厳しい男で、今日もたびたび走者を出していたことに納得していないだろう。準決勝以降でどんなピッチングを見せるか楽しみだ。

 これで6年ぶりの甲子園まであと2勝となった。その時は山田哲人がいたが、戦力は格段に上。これからも気を緩めることなく、全力で戦い抜いてほしい。

(文=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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