糸満vs豊見城

8回、決勝タイムリーを放つ平安（糸満）

　「忠、忠、忠！」閉会式が終わった糸満ナインは、上原 忠監督の名前を愛着を込めて呼び続ける。そんなことしなくていいから。という表情を見せた同監督だが、期待に応えるように輪の中に入ると、選手たちによる監督の歓喜の胴上げが始まった。この大会を最後に、糸満での任期を終える上原 忠監督に選手たちが感謝し、愛しているからこその有終の美であったと言えよう。

　上原 忠監督が、糸満の監督に就任して初めての春季大会が2010年だったがそこで同校を55年振りに優勝へと導く。翌11年の夏には同校初の全国高校野球選手権大会へ出場を、14年秋の九州地区高校野球大会でも準優勝し15年、同校初の全国選抜高校野球大会への出場を果たした。そんな誉れ高い指揮官も県の教職員人事異動で去ることが決定。この春季大会で「監督に花道」を合言葉にしたナインは初戦の陽明戦に快勝すると、第2シードの興南をも7対2で下し完全に波に乗った。準決勝の沖縄尚学戦をも延長14回サヨナラ勝利し決勝へ進出。嘉手納、美来工科を倒してきた豊見城とのファイナルゲームは、糸満平安 常輝と豊見城翁長 宏和の両投手が、ともに長打を許さない1点を争う好ゲームとなっていった。

　1回、糸満はトップの大城 翔太郎がライト前ヒットで出塁すると、犠打で送り3番徳元 ジンもレフト前へ運び一・三塁。ここで打席に入った平安がスクイズを決めで先制した。前日14回投げたばかりの平安だが4回を投げ終えて与えた走者は四球ひとつのみと、豊見城打線を完璧に牛耳る見事なピッチングを披露。糸満は4回、平安と桃原 虎雅に連続ヒットが生まれたが、豊見城を9年振りの決勝へと導いてきた主戦翁長もさるもの。後続を3人で斬るなど、絶妙な制球力で2回以降の糸満のヒットを3本のみに抑える好投を見せた。すると豊見城は6回、四球を得た走者に2つの送球ミスが重なりついに同点に追い付いたのだった。

　しかし糸満には2人の頼れる男がいた。第87回全国選抜高校野球大会にも出場した大城翔と平安が8回、ベンチの期待に応える働きで勝利を呼び込む。このイニング先頭打者として打席に入った大城翔がライト前ヒットで出塁すると相手のエラーもあって一死一・二塁とする。ここで平安がセンター前に運び、大城翔が二塁から一気に生還して決勝点をもぎとると、最後は平安が相手打者を三振に斬ってとりゲームセット。見事、2年振り5度目の春季大会優勝を果たしたのだった。

　糸満上原忠監督「 糸満の監督を務めて7年。地元の人として、糸満のOBとして、選手たちの先生として、選手たちの監督として、選手たちの先輩として。たくさんの思いの中で過ごしてきて（糸満の監督として）最後の大会でも優勝。子供たちに、そして周りで支えてくれた人々に心から感謝します。」

(文=當山 雅通)