沖縄尚学vs興南
一進一退の素晴らしい攻防。最後まで目が離せなかったベストゲーム!
沖縄尚学・安里
Freshman(一年生)たちに経験を積ませる大会、とは言えない本気度満載の至高のゲームに、声援を送る両軍応援団をはじめ全ての野球ファンたちは酔いしれた。
大会前の評判では圧倒的に沖縄尚学が強いと騒がれていたし、それは試合を決めた9回裏の攻撃を見ても納得する。だが中央大会に入っての、選手個々の力と技が想像以上にアップしたのは興南であった。さらに対峙する相手のユニフォームを見て、燃えないナインはいない。それが最後の最後まで目が離せない、一年を締めくくるには最高のベストゲームを演出してくれたのだと、両軍ナインにまずは心から敬意を表したい。
注目の私学対決。序盤をリードしたのは沖縄尚学だった。1回裏、一死一塁から「神がかっている」と、辛口評でもある比嘉監督の口からも驚きの声が聞こえた安里 大心のバットが火を噴く。堅い守りの興南外野陣をも翻弄するような打球は、右中間を深々と破る先制タイムリーとなった。
追う興南は5回表、一死二塁とするとベンチが動く。それまでタイミングが合っていなかった4番の福元 信馬に変えて代打に右の中山 莉貴を送る。その期待に応えた打球がレフト前へと弾み、同点の走者が生還した。
だがその裏、一死一塁から打席に絶好調男の安里を迎えると、興南川満 大翔は慎重にならざるを得なかった。際どいところを突いていくのだが、ボール球を振らない安里は悠々と見送る。結果四球で歩くと、筆者の脳裏に準決勝の豊見城戦が蘇った。はたしてその直後、それまで不振にあえいでいた砂川 リチャードに三塁線を痛烈に破るタイムリーが飛び出す。さらに満塁とすると木村 哲汰が押し出し四球を選び2点目が、そして次打者の内野ゴロの間に3点目が入り、追い付いたばかりの興南を突き放したのだった。
やはり沖縄尚学がこのまま押すのか。そんな思いもよぎる攻撃力を見せられたが、大会を通して急成長を続ける興南はひと味もふた味も違っていた。
6回、一死一・三塁から9番川満のセンター前タイムリーで1点を返す。そして7回、沖縄尚学の安里に勝るとも劣らない打撃力を持つ上原 麗男がライト線を襲う三塁打で味方を鼓舞すると、5回に同点打を放っている中山がライト前へ運び、再び試合を振り出しに戻した。
沖縄尚学の得点を阻む興南
確かに流れは興南に傾いていた。
8回の両軍のスコアボードにゼロが並んだあとの9回表、二死二塁から5番嘉数 尊のライトへのタイムリー二塁打で遂に逆転。恐ろしいほどの勝利への執念を感じさせる後半4イニングでの4得点に、スタンドのオレンジカラーは歓喜一色に包まれた。
それでも。
野球というスポーツは、たった一人の男の持つ力と運で、全てをなぎ倒し全てを変えることが出来る。この試合で当てはまる男が沖縄尚学安里であった。
「必ず打てる、という気しか僕には無かった。」
先頭打者として打席に向かう安里。ファインダーを通した筆者の目には、これまで以上にメラメラと燃える彼の眼力が映った。案の定と言っていいのか、余りにも当たり前のようにと言っていいのか。感嘆の思いしか出てこない。彼のバットから飛び出した二塁打。これが、彼の通算打率を.786にする今大会11安打目でもあった。
後続も彼に続く。砂川がセンター頭上を襲う同点タイムリー二塁打を放つと、與座 巧人は投手と三塁手の間を絶妙に転がすバントヒット。無死一・三塁となると誰も止められない。木村が四球で満塁となると、打席に入った石川 亮介がチームの勢いそのままに初球を思い切り引っ張る。打球は一塁手の横を破り、歓喜の逆転サヨナラとなっていった。
「2015年、興南さんに三度もやられたまま終わるのと、やり返して終わるのとでは全然違う。やはり宿命のライバルに対し、このような形で終われたのは2年生たちも含めてチームとして良い形で来年へ向けていけると思います」と、比嘉監督の口からも宿命のライバルという言葉が出てくるほど、興南に対する思いはどの他校よりも強い沖縄尚学。そしてそれは興南にとっても同じ。その両軍の思いが、最後まで魅了するベストゲームを作り出した。張本氏の言葉を借りられるなら、「あっぱれ沖縄尚学、あっぱれ興南」と叫びたくなるくらい、素晴らしい試合であった。
(文=當山 雅通)