仙台育英vs滝川第二
滝川第二の勢いを止めた初回の盗塁阻止
佐藤世那(仙台育英)
お互いに打力が高く、さらに速球に強い。序盤の試合運び次第では、打撃戦になっていくのではないかと予想された一戦だが、滝川二の打線の勢いが遮断されたと感じたのは、1回裏の場面だ。
滝川二が誇る根来祥汰。根来が出塁できるか、否かで滝川二の攻撃内容は変わってくるが、いきなり根来は佐藤世那のストレートを流し返す左前安打。最短距離でバットを振り出すことができており、そのバットコントロールはやはり非凡なものがある。
その根来はいきなり盗塁を仕掛ける。意表をついた盗塁だと思ったが、仙台育英バッテリーは察知していたかのように、ウエストからセカンドへ送球。根来はアウトになった。盗塁タイムを計測したところ、3.40秒。俊足をウリにする選手としては遅いタイムである。ちなみに佐藤世のクイックタイムは1.19秒、郡司裕也のスローイングタイムは2.13秒。合算して、3秒31。高校生バッテリーとしては平均的なタイムだが、俊足をウリにする選手ならば盗塁を決めてほしい場面。ちなみに球界屈指のスピードスター・鈴木尚広選手(2014年インタビューvol.1)は3.00秒~3.15秒を記録する。そのタイムは驚異的で、1.00秒前後の高速クイックができる投手と2.00秒以下で、さらにセカンドへドンピシャのスローイングができない限りさせないタイムである。
根来は盗塁時のスタート、そして盗塁ができる選手と比べると、スライディングの加速が足りない。直線的に速いが、駆け引きやリード、スライディング、スタートで鍛える必要があるだろう。鈴木選手は盗塁は足の速さは問われないと語ったことがあるが、まさにそうだと感じる1シーンだった。狙いは本塁から一塁までの塁間タイムは3.7秒~3秒8を計測する驚異的な脚力はあるだけに、確かな盗塁技術を覚えれば、どんなスピードスターになるのか、楽しみは尽きない。
さて話を試合に戻すと、仙台育英はこの根来の盗塁阻止したことで、俄然と勢いがついた。2回表、仙台育英は二死三塁から佐藤世那の適時打で1点を先制すると、4回表には無死三塁から紀伊海秀の適時打、5回表には郡司裕也の本塁打が飛び出し谷津 航大の2点適時打、さらに佐藤世の適時打で6対0と大きく差を広げる。
7回表、佐藤将太の適時打で7対0と大きく差を広げる。
投げてはエース佐藤世が粘り強い投球。この日、最速144キロを計測したストレートと、落差あるフォーク、スライダー、カーブを投げ分ける投球。昨年よりも投球のレベルはかなりグレードアップしており、135キロ前後のフォークはそう簡単にミートができるものではない。立ち上がり走者を許しながらも、要所を締める投球で、ゲームメイクする。本人はあまり調子は良くないようだが、三振を狙うことなく打たせて取ることができている。
ちなみに佐藤世のフォームはいわゆるアーム式と呼ばれているが、肩甲骨をしっかりと動かして、着地時にはしっかりと肘が上がっている。この投げ方になったのは、小学生の時からだというが、生まれつきで作り上げたフォームを修正するのは、人間を変えるようなものだ。右ひじ剥離骨折があったというが、これはフォーム上よりも、秋季大会で16試合を投げて13完投した影響はあったのかもしれない。しっかりと投球間隔をあけて、調整をする場所ならば、持ち味を十分に発揮できる投手だと思う。
佐藤世は8回裏、大嶋雅人の適時打で1点を返したが、佐藤世を打ち崩せず、仙台育英がベスト16入りを決めた。佐藤世は1失点完投を決めた。
登板間隔が短くなる花巻東戦ではどんな投球になるのか。東北勢同士の対決ということでやりづらさもあるだろう。花巻東は徹底とした研究をして試合に臨むチームである。佐藤世だけではなく、仙台育英の対応力が試される試合になりそうだ。
(文=河嶋 宗一)
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