試合レポート

敦賀気比vs大阪桐蔭

2015.03.31

衝撃の準決勝第1試合!

 大阪桐蔭のエース・田中誠也(3年)。2回表、敦賀気比の6番・松本哲幣(3年)に大会史上初となる2打席連続本塁打を浴びてこの試合10点目を奪われた瞬間、投手交代を悟った。ベンチに戻った田中に、有友茂史部長が声をかける。「ここで終わりじゃない。まだ試合が始まったばかりなので、チャンスは絶対くる。チームのためにできることをやってくれと言われました」と話した田中の目には涙が溢れていた。試合途中で泣いたのは、初めてだそうである。それだけ2打席連続満塁本塁打と10失点の衝撃は大きく、投手としてこれまで築き上げてきた自信が揺らいだ瞬間だった。

 一方、打った松本は落ちついた表情でこう話している。
 「平沼(翔太=3年)を助けたかったので、ドンドン振っていこうと思った気持ちが、ああなったと思います。甲子園でのダイヤモンド一周は今までなく気持ち良かった。2打席目はヒットでも良いという気持ちでした」。

 衝撃だった2打席連続満塁本塁打は、大阪桐蔭に重くのしかかり、敦賀気比を楽にした。ただ、勝負の中で大きなポイントになったのが、2回表に松本が2打席連続満塁本塁打を打つ前。敦賀気比の8番・嘉門裕介(3年)と9番・木下翔吾(3年)の二人で奪った5点目にある。

 このイニング先頭の嘉門は、2球目を打ち返し左中間を破る二塁打を放った。続く9番・木下は2球目に送りバントをするそぶりを見せた。しかしこれが空振りになり、2ストライクと追い込まれる。
 しかしこの空振りで木下は開き直った。3球目がボールとなったあとの4球目、直球が真ん中に来たのを見逃さず、右中間へと弾き返す二塁打を放った。ランナーの嘉門が本塁を踏み、勝負において大きな5点目を挙げた敦賀気比。二塁に達した木下は、「追い込まれて変化球が来るかなと思ったが、直球が真ん中にきた。ありがとうという感じです」としてやったりの表情を見せた。

 逆に大阪桐蔭の田中にとっては、1回の4点で敦賀気比に傾いていた流れを取り戻すチャンスとなるバントの空振りをさせて追い込んだのに、流れを掴み切れずにまた手放した形だ。しかも絶対に打ち取りたい8番打者と9番打者に打たれたのだから、衝撃も大きかっただろう。

 たられば論になるが、もしここで木下が送っていたら、2打席連続満塁本塁打が出る確率は低くなっていたかもしれないし、松本にとっても木下がバントを空振りしてくれたからこそ、2打席連続満塁で廻るという運を掴んだのではないだろうか。

 2回の守り以降、大阪桐蔭は普段の試合では中々見られない焦りが出始めている。
 一つ目は2回裏に敦賀気比の1番・篠原涼(3年)がレフトフライを放った直後、西谷浩一監督が背番号16の杢田竜輝(3年)を土井淳宏球審の元へ質問の伝令を出している。「気になることがありましたので」と西谷監督は言葉を濁したが、普段はあまり見られない珍しい出来事だった。

 二つ目は2回表、4番・平沼翔太に対して田中が投じた2球目がややすっぽ抜け気味にシュート回転して平沼の右肘付近に向かったこと。肘に当たりはしなかったが、死球スレスレの危ない場面だった。昨夏の甲子園では、平沼を含め何人かの投手が大阪桐蔭戦で死球を受けている。そのこともあって、試合前取材でこの日の平沼と準々決勝で敗れた常総学院鈴木昭汰(2年)に打席で体付近の内角を攻められることにどう対策しているかを聞いてみた。二人とも、それほど気にしてはいなかったようだが、頭の片隅には入っていたようである。対平沼以外にもすっぽ抜けた球が多かった田中が焦っていたことが、球筋から読み取れる。

 そして三つ目は3回裏、大阪桐蔭の1番・中山遥斗(2年)がセカンドゴロを放った際、一塁にヘッドスライディングをしたことだ。試合前半で、しかも間一髪ではなく完全なアウトのタイミングで一塁ヘッドスライディングをすることは非常に珍しい。これも大きくリードをされたことによる焦りからのものなのだろうか。そのことを西谷監督に質問すると、「やっぱり下級生で結果が出てなかったので、背負うものがあったのかなと思います。中山にとっても良い勉強になったのではないでしょうか」と中山の心情を思いやった。

 これだけ焦りが見えた試合。近年の甲子園であっただろうか。

 防戦一方になった大阪桐蔭だが、田中が降板した後の3回以降は、8回のスクイズでの1点しか取られなかった。リリーフした高山優希(2年)、松井孝太郎(3年)、岩本悠生(2年)の左腕三投手は貴重な経験をすることができた。
 振り返れば、昨年のチームは前年秋の大阪大会で履正社に大敗してことを糧に強くなった。時期は違うが今年も道筋は同じで、これから夏に向けて強くなるチャンスである。エース・田中は言った。「選抜はこれで終わりなので、明日から夏に向けてもっとレベルアップして勝てる投手になりたい」。

 大阪桐蔭の夏は、史上初の大阪大会4連覇が最初の目標になる。

 
  
 

 

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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