県立岐阜商vs近江
戦略
1回戦(九産大九州戦)の試合後、近江の多賀章仁監督はこんなことを話していた。
「県立岐阜商の髙橋純平君(3年)と1対0のような投手戦をやりたい」。だがその願いは、1回表で崩れてしまった。
一方の髙橋純平は、試合前のじゃんけんに勝ったら先攻を取りたい気持ちを話している。
「先に点を取った状況でマウンドに上がりたいというのもあるのですが、後攻だと守りでバタついてしまうことがある。時間とかも考えて、先攻の方がゆとりを持って入れると思うんです」。この日の試合に関しては近江は後攻を取りたい気持ちだったため、じゃんけんでどちらが勝ったのかはわからないが、県立岐阜商陣営からすれば、最高の入りだったに違いない。
そして1回表の2点。ゲームの流れを決めたのは、県立岐阜商の1番・村居尚磨(3年)が2球目の放った二塁打だ。
近江のエース・小川良憲(3年)には1回戦でも度々見せた左打者へのシンカーという大きな武器がある。左打者である村居に対し、立ち上がりにどの段階でシンカーを見せてくるのがポイントだった。
プレーボール直後の1球目、小川は135キロの直球を投じ、村居はこれをファウルにした。
2球目、小川の選択はカットボール。この球がやや真ん中よりに入るのを、村居は見逃さない。思い切ってフルスイングすると、打球は誰もいないライト線へと飛んでいった。楽々と二塁に達した村居に笑顔が見える。逆に、「こんなに思い切って振ってくるとは思わなかった」という小川の胸中は複雑だった。武器であるシンカーを見せる前に打たれたからである。
試合後の村居に、第1打席でのシンカーに対する考えを聞いた。
「シンカーがどこで来るかは追い込まれてから考えるようにして、それまでは直球やスライダーを狙っていこうと試合前から決めていました」。つまり、追い込まれるまではシンカーを捨てるという狙いであり、追い込まれてしまうまでに、シンカーを投げられる前にに打ちたいという意思でもあった。
ただし、見事に振り抜いた2球目がカットボールという読みではなく、「ストライクゾーンに来たので振ってしまえ」という心境だったという。小川のコントロールの良さが逆に仇となってしまったのかもしれない。
さて、流れをもたらした村居は、打席でもう一つのターゲットを決めている。それが近江のキャッチャー・仲矢惇平(3年)。
「キャッチャー(として)は、公式戦の経験が浅い。自分としてはバッテリーにプレッシャーをかけたい気持ちがあり、そういう面でもしっかりとバットを振れば、キャッチャーも迷うと思った」。まさに近江バッテリーに衝撃を与える村居の一打となったと言えるだろう。
この後、2番・広瀬将(2年)が1球で送りバントを決めると、3番・竹腰裕行(3年)と4番・山田陽太(3年)の連続長打で県立岐阜商が2点を先制。試合開始から2点が入るまでわずか8球。小川はこの間、1球もシンカーを投げられなかった。
後から考えれば、「初回の2点は重かった」と小川は話す。1対0の投手戦を望んでいた多賀章仁監督も相手が髙橋純平ということを考えると、「重すぎた」と語った。完全なる県立岐阜商と村居の戦略勝ちであろう。
結局、髙橋純平は3安打10奪三振、112球で完封。『2点あれば十分』と思える見事な投球内容だった。