都立小平vs日本学園
強豪校に勝つために行った2つの準備
一柳大我(日本学園)
昨夏西東京ベスト8の都立小平とプロのスカウトも注目する一柳大我擁する日本学園との対戦。
一柳は投打ともに注目を浴びている存在だ。投手としては、常時130キロ~135キロ前後の速球に、スライダー、カーブを投げ分ける好投手。打者としても、長打力はもちろん、厳しいコースをファールで粘り、変化球を鮮やかに右打ちする技術の高さ。また下手なボール球に手を出さずにじっくりと見極める選球眼の高さ。スキルの高さは、都内の強豪校の打者と比較してもそん色ない打者だろう。
そんな一柳を打たせたら、一気にチームに乗せかねない。石田幹雄監督は、相当警戒していたと明かした。
そして都立小平は、このような相手に勝つために準備をしていたことが、「速い球を打つ」と「速い球を捕る」ことだった。石田監督は、こう説明する。
「昨夏の準々決勝では日大鶴ヶ丘の小林投手の130キロ後半の速球を打ち崩せずに負けました。上にいくためには、それぐらいの速球を打ち返せないと、勝負になりませんので、マシンでひたすら打撃練習。日本学園はクリーンナップは一柳君を含めて、打力も高く、打球も速い。それもあって速い球を捕り続ける練習を繰り返してきました」
速い球に慣れるための練習法は、至近距離からテニスボールを打って捕球するものだ。一塁手の大井は、最初は怖くて捕ることができなかったようだが、だんだん慣れてきて、速い打球に対してついていくことができるようになった。
この2つの準備がこの試合に最大限に生かされる。
福井丈史(都立小平)
1回裏、都立小平は一死から2番新宅が右中間を破る三塁打を放ち、3番中井の犠飛で1点を先制する。多くの打者に話を聞くと、「いつもマシンで速い球でやっていたので、それほど速く感じませんでしたし、ストレートについていくことができました」と語った。心理的な余裕もあったのか、鋭いスイングを見せていた。
都立小平の先発・福井丈史が好投を見せる。スピードは、125キロ前後(最速130キロ)でそれほど速い投手ではないが、カーブ、チェンジアップの投げ分けが実にうまい。遅いボールを続けて投げたところで、高めのつり球。またはストレートに山を張っているのを見て、チェンジアップで打ち取るなど、技の投球で、日本学園打線を封じ、ゲームメイク。
4回表、無死満塁のピンチを迎えるが、5番苅部を空振り三振、6番遠藤を空振り三振、7番石黒を内野ゴロと見事に切り抜け、その裏、7番鈴木の適時打で2対0とする。
試合は6回まで2対0で都立小平のリード。実に良いリズムで試合運びができていた。6回表、無死一塁から4番高瀬が放った一塁線の痛烈なゴロを大井が好捕し、併殺。さらに7回表、一死満塁のチャンスを迎えたが、1番を投手ゴロ併殺に打ち取り、見事にピンチを切り抜ける。
そして8回裏には二死二塁から敵失から1点を追加し、2番新宅の適時打で1点を追加し4対0と点差を広げた。
福井は要所で絞めて完封勝利。苦しい試合をものにした。最後の打球は一塁線の痛烈なゴロ。大井が好捕。これまでの練習が生きたアウトだった。
試合後、石田監督は、「本当に苦しい試合でした。先制したことでだいぶ楽に入ることができましたし、そして8回裏に2点を追加したのも本当に大きかったです。福井も良く投げました」と試合を振り返った。
個人の能力では日本学園が目立っていた。だが都立小平は、個人の能力が高い相手に対して、どうすれば戦えるかを考えて、練習に取り組み、試合に実践することができていた。
なぜ去年の夏ベスト8まで勝ち進むことができたか。それが理解できる試合内容だった。高いレベルを見据えて取り組むことができる都立小平は、今年も台風の目になりそうだ。
(文=河嶋 宗一)