試合レポート

仙台育英vs浦和学院

2014.11.19

仙台育英2年ぶりの優勝、主将代理の平沢攻守に活躍

4日間で3度目の登板となった佐藤世那(仙台育英)

 乾いた冬の風が強く吹く中、高校野球の今年最後の公式戦である明治神宮野球大会高校の部の決勝戦が行われた。この時期最も完成度が高いチーム同士の対戦である仙台育英浦和学院の試合は、壮絶な打撃戦になった昨夏の甲子園の再戦(試合レポート)でもある。

 仙台育英の先発は佐藤世那。準決勝に続く連投であり、4日間で3度目の登板である。
「他の投手が故障で試すことができなかった」と仙台育英の佐々木順一朗監督が語るように、チーム事情による連投ではあるが、この試合に対する意気込みの表れでもあった。

 一方浦和学院は今大会初登板ながら、関東大会の準決勝、決勝で先発した左腕の小倉匡祐が先発した。
多くの左腕投手にとって、立ち上がりは鬼門の一つ。1回表仙台育英の2番青木玲磨は一二塁間を破る右前安打、3番平沢大河は四球で一死一、二塁。4番郡司裕也の打席で、二塁走者の青木は、小倉の一瞬のスキを突き三盗に成功。そこで佐々木監督が「つなぐ4番」と言う郡司が中前安打を打ち仙台育英が1点を先取した。それでも浦和学院の小倉は、後続を連続三振に仕留め、失点を最小限に抑えた。

 仙台育英の先発の佐藤世は、「疲れの影響でシュート回転するボールも多かった」と言うものの、「技術よりも気迫の問題」と語っているように、気持ちの伝わる投球で、浦和学院打線を抑える。

 しかし、仙台育英にとっては、この試合の流れを大きく左右するピンチが3回裏に訪れる。
この回先頭の8番西野真也が中前安打で出塁。9番小倉はスリーバント失敗で倒れたが、1番諏訪賢吉は左前安打で一、二塁。続く臺浩卓の左前安打で西野が還って同点に追いついた。続く3番津田翔希は三遊間に強い打球。これをプロ注目の遊撃手・平沢が軽快にさばき、二塁、一塁と送られ併殺。浦和学院に傾きかけた流れを、引き戻した。

 仙台育英の佐々木監督は、「すごいプレーをたくさんするけど、イージーミスも多い」と語るものの、平沢がプロ注目選手であることを示すのに十分なプレーであった。

第45回記念明治神宮野球大会

2ラン本塁打を放った平沢大河(仙台育英)

 5回表は、今度は仙台育英がチャンスを迎える。まず先頭の1番佐藤将太が右中間を破る三塁打で出塁。2番青木、3番平沢に連続四球で無死満塁という絶好機。続く4番郡司の遊ゴロを、浦和学院の主将である津田が落ち着いて本塁に送球。さらに一塁に転送されてこちらも併殺。仙台育英のチャンスはついえたか思われた。しかし、二死ながらも二、三塁に走者が残っていた。

 浦和学院の小倉は、5番佐々木良介への3球目、球がワンバウンドになる暴投で、青木が生還し、仙台育英が1点を勝ち越した。仙台育英の佐藤世と同じように浦和学院の小倉も、フォーク、スライダーなど落ちる変化球を投げているだけに、起こり得るミスであった。
けれども仙台育英の佐々木監督が、「満塁でゲッツーになり終わったなと思っていたところで、1点が入ったのは大きかった」と語っているように、非常に貴重な1点であった。

 仙台育英は7回表に追加点を挙げる。この回先頭の佐藤世が内野安打で出塁すると、1番佐藤将太は右飛。強風が吹く中、浦和学院の右翼手が落球したものの、一塁走者・佐藤世のスタートが遅れ、二塁でアウト。一死一塁となり、2番青木は三振。ただ三振となった時、佐藤将は盗塁で二塁へ。打席には3番の平沢が入った。平沢が叩いた打球は、右中間のフェンスを余裕で超える2ラン本塁打になった。

「前の打者の時に盗塁をしてくれた。(打った瞬間)入るとは思わなかったけど、入ってくれと思った」と平沢は語る。
仙台育英は本来、外野手の佐々木柊野が主将であるが、この大会の前に練習試合中に負傷し、大会に出場できなくなった。2人いる副主将の1人である平沢は自ら代理の主将を買って出ていた。その責任感の強さが、今大会のプレー中も感じられた。

 平沢の本塁打は、決定的なダメ押し点と知った。佐藤世のフォークボールなどのキレは、最後まで衰えず、結局4対1で仙台育英が勝ち、2年ぶりの優勝を成し遂げた。仙台育英の優勝により東北地区には来春のセンバツにおいて、神宮枠が割り与えられた。


 一方、浦和学院には、悔しい敗戦であった。昨夏のこの対戦(試合レポート)では、浦和学院がサヨナラ負けしていた。
その試合に1年生ながら出場していた主将の津田は、「仙台育英には負けたくなかった。勝てなかったことが全てです」と、小さな声で語った。
浦和学院の森士監督は、「今のメンバーでは津田くらいしか出ていませんが、3年生の小島(当時2年生エースだった小島和哉)が一番悔しい思いをしている。在校している間に報いてあげられればという思いはあったのですが……。彼らに申し訳ない気持ちでいっぱいです」と語る。

 森監督は、「佐藤君は真っ直ぐ、フォークの出し入れができるうまい投球をした。これが実力です。(大会は)勉強になった1週間でした」と語った。

 佐藤世那のような好投手をいかに打ち崩すか。浦和学院にすれば、課題がみえたとともに、来春に向けてのモチベーションも高まった。

 明治神宮大会は、センバツの前哨戦であると同時に、現段階での最強チームを決める大会でもある。来春のセンバツが当確のチームも、当落線上のチームも、まずは仙台育英を目標にチーム作りをすることになる。

 主将代理の平沢は、「これからは追われる立場になるかもしれないけど、勘違いせずにやっていきたい」と、来春に向けての抱負を語った。まだ出場校すら決まっていないけれども、センバツに向けての戦いは、既に始まっている。

(文=大島 裕史)

第45回記念明治神宮野球大会

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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