敦賀気比vs英明
平沼、田中の両エースの投げ合いは打撃戦に!新星・山﨑颯一郎の投球に迫る!
田中寛大(英明)
この試合の注目は、敦賀気比・平沼翔太、英明・田中寛大、二人の好投手の投げ合いだ。お互いが実力を発揮すれば、投手戦になることが予想された。しかし、ともに決勝戦を終えて間隔が空いていたためか、本来の出来ではなく、試合は乱打戦に。また一方で新星の登場に沸いた試合でもあった。まず初回から試合を振り返っていこう。
先制したのは敦賀気比。二死二塁のチャンスから4番平沼が左越えの適時二塁打を放ち、1点を先制し、さらに二死一、三塁のチャンスから6番松下の中前適時打で敦賀気比が2点を先制する。だが英明の田中は、7番嘉門 裕介を得意のチェンジアップで空振り三振を奪った。
2回以降、田中は立ち直りを見せる。右足を高々と上げる独特のフォーム。いつもこういう足の上げ方をしているわけではなく、タイミングをずらす意味で、普通にあげたり、高々と上げたりと工夫をしているようだ。
スピードは常時130キロ~137キロとこの時期としては左腕としては速いスピードだ。スライダー、チェンジアップの落差も大きく、本人は「いつものボールではない」と語っていたが、工夫しながら投球をしている様子が伝わった。
平沼翔太(敦賀気比)
一方、平沼は「良くなかった」と振り返るように、球速は常時130キロ~139キロと140キロを超えることはなかった。それでも腕の振りが力強く、やはり他の投手が投げる130キロ台と比べれば、手元でも勢いが落ちないストレートを投げていた。変化球はスライダー、カットボール、チェンジアップ、カーブと球種も多彩だ。
女房役の嘉門に話を聞くと、「ボールの勢い自体は悪くなかったのですが、今日はコントロールにバラつきがあって、苦しいように感じました。変化球も意図的に曲げることができるのですが、今日は変化球の曲がりも不安定で、本来の投球が出来ていなかったと思います」と振り返った。
そこで大事したのは、内角ストレートだ。5回表に無死一塁から7番圖子 優人(2年)に同点2ラン本塁打を打たれ、その後、二死満塁のピンチの招いたが4番湊 亮将(2年)を内角直球で三ゴロに打ち取ったのは見事であった。
しかし6回表にも、一死から6番富田 勝貴(2年)の安打、7番圖子の連続安打で一死一、二塁とピンチを招く。この時、球数は119球に達していた。ここで敦賀気比は投手交代を決断。マウンドに登ったのは、山﨑颯一郎(1年)だ。平沼は一塁へ移った。
しかし山﨑が8番橋本駿輔(2年)に左前適時打と敵失の間に2点を勝ち越しを許してしまう。
2点を追う展開となった敦賀気比。だが6回裏、自慢の打線が爆発。一死から7番嘉門が二塁打。8番松本 哲幣(2年)が右前安打で一死一、三塁。9番山﨑の一ゴロの間に1点差に迫ると、さらに1番篠原涼(2年)が左中間を破る二塁打を放ち、4対4の同点に追いつくと、二死二塁から2番中井 基継が右中間を破る二塁打を放ち、5対4と逆転に成功。その後も連打は続き、3番林中 勇輝(1年)の適時三塁打、5番山本 皓大の適時打で7対4と3点差に広げる。
山﨑颯一郎(敦賀気比)
リードをもらった山崎は好投。188センチ78キロの長身右腕。モデルのような足の長さには惹かれるものはあるが、それを野球に活かすのはなかなか難しいもので、踏み出し足が安定せず、重心移動が上手くできていない。そのため上半身主導の投球フォームになる。
だが肘のしなやかさ、上半身の柔らかさ、手首の柔らかさはある投手で、縦割れのカーブ、スライダーともに良い。ストレートの球速は、常時130キロ~136キロとそれほど速くないが、角度が素晴らしい。この球質のまま、球速が5キロアップすれば、ドラフト候補、10キロアップすれば、ドラフト上位候補に名を連ねそうな潜在能力の高さを感じさせた。
8回に1点を失ったが、二死満塁で3番森山 海暉(2年)を内角スライダーで三振を奪った投球は見事であった。
そして9回表、平沼がマウンドに再び登り、三者凡退に締め、敦賀気比が7対5でベスト8進出を決めた。
両エースの投球は打たれながらも、平沼は打者の手元で一伸びする速球と強気の内角攻め、田中は右打者内角へ決まるクロスファイヤー、チェンジアップは光るものを感じさせ、新たな大器・山﨑颯一郎のポテンシャルの高さにも注目が集まった試合であった。
(文=河嶋 宗一)