鳴門vs小松島
鳴門が誇示した「勝負強さ」と「引き出し」
尾崎 海晴(鳴門)
「なんたる勝負強さ!そしてなんたる選手層!」。試合終了のサイレンが鳴り響き、いつもの校歌「岩をも砕く 不断の力」が流れ始めたとき、思わずこの言葉が頭に浮かんできた。
大会前、鳴門・森脇 稔監督のチーム評はいつもと同じく「ウチは弱いですよ」。だが、この試合では「今日は4年前、夏の徳島大会決勝での(6対7)リベンジをテーマにして、左腕・河野 竜生(1年・左投左打・172センチ72キロ・鳴門市第二中出身))くんの攻略もうまくいった」(豊富 尚博監督)小松島の7安打3得点の健闘があったことで、経験に立脚した強さがいっそう際立つことになっている。
その象徴的シーンが小松島3番・酒井 大輝(2年・遊撃手・右投右打・165センチ61キロ・徳島市南部中出身)が全打点をたたき出し、3対3の同点で迎えた8回表。ここで鳴門ベンチは尾崎 海晴(1年・投手・右投右打・175センチ78キロ・鳴門市第一中出身)、佐原 雄大(1年・捕手・右投右打・175センチ87キロ・徳島ホークス<ヤングリーグ>出身)コンビを投入。いわゆるひとつの「抑えバッテリー」である。
先発・原本 静悟(小松島)
その結果は大吉であった。「夏の甲子園が終わった後、腕をサイドの位置まで下げたことでスライダーの曲がりがよくなった」尾崎は、スライダーがシンカーに近い軌道に変化。最速137キロを甲子園でマークしたストレートとのコンビネーションは、まるで森脇監督がシンカー修得を勧めた鳴門の大先輩・潮崎 哲也(現:埼玉西武二軍監督)のようであった。
一方、佐原も二塁送球2秒をゆうに切る強肩と確実なキャッチング、強気の配球で尾崎のよさを存分に引き出す好リードも披露。8回裏、粘り強く投げ続けていた小松島エース・原本 静悟(2年・右投右打・176センチ75キロ・小松島市立小松島中出身)の夢を断ち切る鳴門6番・森 裕汰(2年・一塁手・右投右打・173センチ71キロ・吉野川市立鴨島第一中出身)の決勝アーチが飛び出した背景は、今大会初登板にもかかわらず2回を被安打1・無失点に封じたバッテリーの存在があった。
ちなみにこのとき、河野は投手から左翼手へ。俊足強打の4番・手束 海斗(1年・右投右打・170センチ85キロ・鳴門市大麻中出身)は捕手から中堅手へ。リスク管理にも怠りはない。
それでも指揮官はいつもの辛口発言を繰り返す。
「このチームはこんなもん。どうにか投手中心で勝たないと」
四国内の9割以上の野球部が、「甲子園出場」をゴール地点としている中、鳴門は完全に「全国で勝つ」へ目線が向いている。
(文=寺下友徳)