岩倉vs渋谷教育学園渋谷
2回、藤田の本塁打がビッグイニングの合図となる
「実は私はムリかと思ったんです。でも、どうしても出たい!という選手たちの思いが叶えられました」。
秋季東京都大会第23ブロック1回戦、第2試合に登場した渋谷教育学園渋谷の高橋正忠監督は感慨深そうに話してくれた。
正式な部員数は2年生1名、1年生5名の6名。3年生も在籍していた夏の大会では2回戦から登場し、正則と対戦。0対5で敗れたものの手ごたえを感じたという。
だからこそ、試合がしたい。秋の大会出たい。それならばどこか他の学校と合同チームを組もうかと模索をしていたところ、学内から助っ人が4名現れた。合計10名。晴れて大会へのエントリーが可能となった。
そして渋谷教育学園渋谷が10名で挑んだ相手は、岩倉。全国大会に出場した過去を持ち、今も都大会の常連。今年の夏の大会4回戦では昨夏の覇者・修徳を破るなど、強豪の名に恥じない地力のあるチームだ。
試合が始まり、1回表は渋谷教育学園渋谷の攻撃。「今回のチームは投手中心で行く」とする岩倉の磯口洋成監督が見込んでいる先発・木曽川がポンポンとリズムよく投げ込んでくる。3番・片山がレフトへ弾きかえすヒットを放ち出塁するも、後続が三振に倒れ3アウト。あっという間にチェンジとなる。
その裏、岩倉は3番・中村のタイムリー、4番・磯口の犠牲フライでさっそく2点を先制。
そして2回裏、岩倉はこの回先頭の7番・藤田がレフトへ本塁打を放つ。するとこれが合図となったかのように、岩倉打線が爆発。5番・伊勢の本塁打、渋谷教育学園渋谷の守備の乱れなどもあり、打者14人の猛攻で一気に10点を挙げる。
さらに攻撃の手を緩めない岩倉は3回裏にも打者12人で8点を追加。木曽川の投球テンポの良さも相まって、岩倉の攻撃の長さが際立つ。4回裏にも藤田が本塁打とは別にこの日2本目となるタイムリーを放つ等3点を追加。キッチリと攻め切った岩倉が23対0と大勝を果たした。
岩倉打線を相手に引かない片山(渋谷教育学園渋谷)
4回裏、岩倉の攻撃が終わると渋谷教育学園渋谷ナインは少しホッとしたような顔を見せた。正直なところ、疲れたし、打ちのめされたはずだ。初戦といえども、強豪校の圧力は半端なものではない。だが、その顔は一様に明るかった。高橋監督はその様子を「負けてもいいというか、失うものは無いからじゃないですかね」と笑った。
とはいえ、「負けてもいい」といっても投げやりなものではない。野球が出来る、試合が出来る。だったら本気でぶつかって行こう。それで負けたっていい。彼らのワクワクした気持ちが伝わってくるようだった。
ぶつかって行った結果、最終的なスコアは0対23と完敗。わかってはいたはずだが、いざ試合が終わると、笑顔と疲れに交じって悔しそうな選手の顔が見えた。3年生の後ろ盾を無くした若いチームが本気で戦ったことで、プライドと責任感を自覚し始めたのかもしれない。
敗れた渋谷教育学園渋谷は春に向けて自分たちを鍛え、それとともに、また一緒に戦う仲間を探すことになる。
「今回出てくれた子たちも、少し楽しくなってきたみたいなんです。残ってくれると嬉しいですね」。高橋監督が期待を込めて語ったが、その気持ちは6名の部員たちも同じだろう。
「負けてもいいや」から「勝ってやる」へ。出場を目標としていたチームが次なる一歩、勝利を目指し動き出す。
一方、最初から勝利を目指していた岩倉は、快勝にも気を緩めない。試合に出ていない大勢の選手たちはグラウンドを整備し、すぐさまミーティング、そして練習を始めた。大所帯のチームには、また違った戦いがある。
「どこまで、という目標は置かない。センバツがかかっている大会ですから、どんどん勝ちを目指しますよ!」磯口監督が力強く語る。
岩倉は次戦、9月15日に聖パウロ学園と戦うことが決まっている。
(文=青木 有実子)