読谷vs与勝
迷いなき指揮官の判断がビッグイニングを作り出す
富田敦己(読谷)
「ちょっとしたペナルティですね」と、試合後の上原健監督はいたずらっぽく、でもいたって真面目に答えた。
その矛先はエース富田敦己。夏の選手権沖縄大会で2年生ながら首里戦に先発し僅か1安打1失点で勝利に貢献した背番号1のエースはこの秋、ふたを開けてみたら10番を背負っていた。去った新人中央大会の中部北予選で、新チームの柱として期待された富田は「腰が痛いからと」1イニングも投げることなくずっと実戦から遠ざかっていた。
「戻ります!の言葉もなくて」ともらす上原健監督の心は、チームを引っ張っていくべき男の、エースとして余りに足りない自覚と行動に「背番号1を与えるわけにはいかないでしょう」とお灸を据えた。
それはこの日の先発投手欄にも表れ、マウンドには春季県大会で興南を完封した180cmの長身山城航があがり、富田はレフトへと走っていった。
その山城だが、この日は制球に苦しんだ。キャッチャーがどんなに低めに構えてもストレートの殆どが上ずってしまい、2回、3回と連続二死三塁と与勝に押される場面が続いた。さらに4回にも同じくツーアウトながら走者を三塁へ進められてしまう。
ここで7番神村哲太にレフト前へ運ばれ先制点を許してしまった。まるでかけ違えたボタンを直せないまま、しっくりこないような形が続く読谷はその裏、4番大城龍太がレフト前ヒットで出塁するがバント失敗(捕飛)。「ここに来る前に学校のグランドで打ち込んできたけど全く振れていなくて、場合によっては1-0の負けになることも過ぎった」という指揮官の懸念そのままに、セカンドフライ、ピッチャーゴロと二塁へ進めることすらままならなかった。
[page_break:与勝をひとりで粉砕した大城瞳磨]与勝をひとりで粉砕した大城瞳磨
大城瞳磨(読谷)
ギクシャクした中にあってもチームは毎回安打を記録するなど指揮官に焦りは無く、むしろ3回裏の二塁打を見て確信した「絶好調男にチャンスが回ってきたら」(上原健監督)と思っていた形が5回裏、ついやってきた。
一死から9番に代打大湾翔太を送ると期待に答える二塁打。好打を見せた大湾に対しすかさず代走島袋泰樹を送ると一・三塁から大城瞳磨(おおしろ・とうま)が右中間へ落とす同点打を放った。6回に2点を失った読谷ではあったがその裏、その2点を失った富田のライト前ヒットからなんと5者連続ヒット。
「1点ずつ返していってたなら、今日のウチでは(同点止まりになって)そのまま負ける可能性が大きかった」
と、攻める場面が来たら流れに乗ったビッグイニングを作らないと勝てないと思い描いていた指揮官には、スクイズやエンドランなどの小細工は皆無。そしてそれを実行させたもうひとつの冷静な判断が「相手先発の疲れが後半に来る」という、中部北で何度もぶつかったが故の、与勝に対する分析だった。賭けでもなんでもなく、全ては迷いなき判断。それが大量5点をボードに刻む逆転を生んだのだった。
登板した6回は不甲斐なかった富田も、逆転後は回を追うごとに力強さを増し、この日の最速139Kmのストレートとブレーキのかかった鋭い縦スラで最後の9回表も2者連続三振を奪うなど三者凡退で危なげなくゼロを刻みチームを二回戦へと導いた。
敗れた与勝だが、先発の宇根越(うね・こゆる)が、沖縄尚学 山城大智ばりのライアン投法でノビのあるストレートを武器に読谷打線を抑え続ければ、6回にワイルドピッチと唐澤龍斗の内野安打タイムリーで2点をリードするなど前半は終始試合をリードし続けたが、ただひとりの男にしてやられたかっこうとなった。唐澤の次の打者として打席に立ち、センターの頭上を襲う快打を放った新屋太智の打球は誰もが抜けると思った。だがその打球に懸命に手を伸ばして、ランニングキャッチのスーパープレーで与勝の勢いを止めたその男こそ、5回に同点打を放っており、6回裏の一死満塁でも走者一掃の3点タイムリーを放った大城瞳磨その人だった。
(文=當山雅通)