大阪桐蔭vs健大高崎
健大高崎の走塁を上回った主将の一振り
健大高崎の足を大阪桐蔭バッテリーがいかに抑えるか、焦点はその一点に絞られていた。
投手のクイック、捕手の二塁スローイング、一塁走者の二塁盗塁に要するタイムをここでおさらいしよう。
福島孝輔(大阪桐蔭3年・投手)のクイック……1.34~1.38秒
横井佑弥(大阪桐蔭3年・捕手)の二塁スローイング……2.00~2.06秒
※以上2人のタイムはいずれも明徳義塾戦(試合レポート)で計測したもの
脇本直人(健大高崎3年・外野手)の二塁盗塁……3.11~3.35秒
※以上は岩国戦(試合レポート)、利府戦(試合レポート)で計測したもの
福島、横井の最も速いタイムを合計すると3.34秒、脇本の最も遅い3.35秒をやっと刺せるレベルだ。
さらに健大高崎には脇本と同等の脚力を誇る平山敦規(3年)、星野雄亮(3年)がいる。
3人が3回戦までに記録した「打者走者の各塁到達タイム」の中でもスペシャルなものを紹介しよう。
平山 一塁到達・バント3.86秒(山形中央戦)
星野 一塁到達・バント3.86秒(岩国戦)
脇本 三塁到達・三塁打11.36秒(山形中央戦)
俊足の基準は一塁到達が4.3秒未満、二塁到達が8.3秒未満、三塁到達が12秒未満なので、3人の脚力がいかに凄いか実感できると思う。
3人の足をいかに封じるかというテーマで臨んだこの試合、結果的に大阪桐蔭バッテリーは3人の足を封じることはできなかった。
1回裏、1番平山がストレートの四球で出塁するとすかさず二盗、2番星野が送って1死三塁としたところで3番脇本がセンターに高々とフライを上げて先制。
ちなみに、平山の二盗のとき、捕手・横井が計測した二塁送球は1.96秒である。十分刺せるタイムだが、高く逸れた分、0.4秒くらいのロスがあったので実質的には2.3秒以上かかっている。このタイムでは平山の足は殺せない。
3回には2死から平山がバント安打で出塁し、このときの一塁到達タイムは私が計測した中では日本ハム時代の糸井嘉男(現オリックス)しかなし得ていない3.5秒未満(3.48秒)。得点にこそつながらなかったが、大阪桐蔭内野陣は凍りついただろう。
3回に大阪桐蔭に2点入れられ逆転されても健大高崎が4回にすぐ反撃する。
先頭の3番脇本が二塁打で出塁(二塁到達7.98秒)、4番長島僚平(3年)がバントで送り、5番柘植世那(2年)のタイムリーで同点に追いつくという流れ。
先制シーンも同点シーンも警戒していた足でものにされている。大阪桐蔭ベンチに嫌な空気が流れたことは想像に難くない。
しかし5回以降、3人の出塁は7回の平山の四球による1回だけだった。
福島がストレートとスライダーによる揺さぶりと低めへの意識を研ぎ澄ませ、健大高崎打線を沈黙させたのだ。福島の安定した投球が打者を奮起させる。
7回表、先頭の9番福島がヒットで出塁、1番中村誠が3球目に投じられたスライダーに対しヒザをクッションにしてタイミングを合わせ、レフトスタンドに放り込む。
8回には2死三塁から1番中村が再び左前にタイムリーを放って決定的な5点目を奪う。
中村は1回戦の開星戦(試合レポート)が3打数0安打、2回戦の明徳義塾戦(試合レポート)が5打数1安打、3回戦の八頭戦(試合レポート)が4打数2安打1打点と復調気配こそ漂わせていたが、12打数3安打、打率.250はけっして満足できるものではなかった。
大阪桐蔭打線は2番峯本匠(3年)、3番香月一也(3年)、4番正随優弥(3年)の主軸が好調で対戦校の脅威になっているが、1番中村が出塁しないことでビッグイニングを作りづらい状況が生まれていた。その中村に当りが出てきたことによって大阪桐蔭打線はさらに活気づいてきた。
旋風を巻き起こした健大高崎の中では、平山の通算8盗塁が大会タイ記録である。それまでの記録が第7回大会で京都一商(現西京)の原田が作ったものというから、実に93年ぶりの快挙である。
2年前の選抜では大阪桐蔭に1対3のスコアで準決勝敗退(試合レポート)。
このときは藤浪晋太郎(現阪神)-森友哉(現西武)のバッテリーに自慢の足が封じられたが、この日は平山が1人で3盗塁、6番山上貴之が1盗塁と、持ち味は十分に出せた。
堂々とした準々決勝敗退と言っていいだろう。
(文:小関順二)
【野球部訪問:第35回 大阪桐蔭高等学校(大阪)】
【野球部訪問:第99回 高崎健康福祉大学高崎高等学校(群馬)】