試合レポート

春日部共栄vs市立川越

2014.07.27

最後の最後に猛打爆発!春日部共栄9年ぶりの甲子園ヘ

 投げ勝つのは果たしてどちらか?

 春日部共栄金子大地(3年)、市立川越上條将希(3年)、今年の埼玉を代表する両左腕の秋以来の再戦となる決勝戦ということもあり[stadium]県営大宮球場[/stadium]は朝からは熱を帯びていた。ちなみに、準決勝での対戦では1対0で上條が金子に投げ勝っている。

 市立川越は先発を登坂航大(2年)ではなくエース上條にした以外は不動のオーダー。
一方の春日部共栄は、前日から2番に守備力の高い小暮涼(3年)ではなく佐野尚輝(3年)を入れる。また、8番には濱谷悠平(3年)に代え主将・小林慎太郎(3年)が復帰し試合は始まる。

 試合は序盤から戦前の予想通り両投手の踏ん張りもありロースコアで進む。

 まずは前回のリベンジに燃える春日部共栄・金子は初回から準決勝同様のテンポで好投を見せる。
一方準決勝で終盤犠打の際に左肘を痛めた影響や、熱中症の症状も出ており状態が心配された市立川越・上條もスピードこそMax135km程であったが、初回の一死一、二塁のピンチを凌ぐと、3回裏には春日部共栄打線を三者三振に切って取るなど、その後は周囲の不安も吹き飛ばす好投を見せた。

 すると、徐々に流れは市立川越に傾く。

 3回表には二死から前村英樹(2年)、平田聖和(3年)の連打で二死一、二塁とし、2番・松本竜生(3年)もレフト前ヒットを放つがレフト高野の好返球で二塁走者前村は本塁憤死し無得点に終わる。

 5回表には、一死から7番・佐藤公紀(3年)がレフト前ヒットを放つが、続く上條は犠打を失敗しチャンスは萎んだかに思われた。だが、9番・前村が死球で出塁し二死一、二塁とチャンスを広げる。ここで、1番・平田のファーストゴロをファースト三浦友之(3年)が後逸し先制点が市立川越に入る。

 その裏、春日部共栄もすぐさま反撃を開始する。
この回先頭の長岡大智(3年)がレフト前ヒットで出塁すると、続く小林の所で仕掛けたエンドランがセカンドゴロとなり一死二塁となる。二死後、清水公頁太(3年)がレフト前ヒットを放ち二死一、三塁とすると、続く佐野が右中間へタイムリー2塁打を放ちすぐに1対1の同点とする。

 だが、6回表、市立川越はこの回先頭の奈良龍之介(3年)がライト前ヒットで出塁すると、続く冨岡弥夏(3年)が死球でつなぎ無死一、二塁とする。
5番・丹羽功大(3年)がきっちりと送り一死二、三塁とすると二死後、7番・佐藤が死球を選び二死満塁で打席には上條が向かう。上條は期待に応えレフト前タイムリーを放ち自らのバットで再び1点を勝ち越す。


 一方、打ち崩せそうで崩せない上條に対し春日部共栄も7回裏、二死から清水、佐野の連打に死球などで二死満塁とチャンスを作るが4番・原田寛樹(3年)が凡退しチーム内に暗雲が漂う。

 だが、8回裏だった。今大会のハイライトとなる春日部共栄の攻撃が始まる。

 この回先頭の三浦がセンター前ヒットで出塁すると、続く金子に対しベンチは犠打のサインを出す。だが、犠打は2度ともファールになり追い込まれてしまう。
ここでベンチは打撃に切り替える。金子は期待に応えレフト前ヒットを放ち無死一、二塁とチャンスが広がる。だが、7番・長岡の犠打もフライになりチャンスは萎む。

 犠打の決められない選手達に本多監督は業を煮やしたか手で×のサインを出し、すぐに二塁走者三浦を濱谷に代える。ここは、打って返すしかないと本多監督も腹を括ったのであろう。
ここから堰を切ったように春日部共栄打線が爆発する。

 まずは、主将が応える。
8番・小林がレフト前ヒットでつなぎ一死満塁とさらにチャンスが広げると、続く高野凌治(2年)がきっちりとレフトへ犠飛を放ちまずは2対2の同点とする。元々一死満塁だったことを考えると市立川越ベンチも上條も同点までは想定内だったであろう。

 だが、続く清水の死球で再び満塁とすると、この日3安打と当たっている佐野にもフルカウントとしてしまう。ここで佐野が値千金となるセンター前2点タイムリーを放ち4対2とこの試合春日部共栄が初めて勝ち越しに成功する。

 続く守屋元気(3年)がセンター前タイムリーを放つと、当たりの止まっていた4番・原田にも右中間への2点タイムリー二塁打が飛び出し、この回結局春日部共栄は一挙6点を奪うビッグイニングを作り勝負あり。
5回戦の川越東戦以降やや止まっていた打線が最後につながりを見せ、終わってみれば好投手上條から15安打7点を奪い春日部共栄が苦しみながらも9年振りの甲子園への切符を掴んだ。


 もちろん上條に疲労はあったであろう。だが、彼の目もボールも死んではいなかった。
むしろ、上條の誤算はこの日タイミングの合っている佐野に対し、満塁でフルカウントにしてしまったことか。これで相手が直球を待っている所で直球を投げざるを得ない状況に陥ってしまった。

 市立川越は、好投手上條を擁し市立高校でありながら準優勝、ベスト4、そして準優勝と今年一年一番安定した成績を残したチームであった。

 打線も秋と比べ夏は力強さを増していた。また、消耗戦である夏の大会で積極的に2年生を先発させ、上條の負担を最小限に抑えることにも成功した。上條も春先から決して万全の状態ではない中、良く投げた。同じく左腕の岡崎投手を擁した平成元年以来の悲願の甲子園を目指したが、最後は力尽きた。

 一方の春日部共栄だが、私学4強最後の砦として5回戦川越東戦といい、準決勝大宮東戦といい、相手にヒット数で上回れながらも接戦を物にする勝負強さはさすがの一言であった。

 今大会は守備力と金子の好投に尽きるであろう。
今日も三浦のエラーこそあったが、総じて守備陣は安定していた。だが、甲子園ではそう簡単にはいかない。金子もある程度の失点は覚悟しなければならない。

 そうなると、キーになるのは打線だ。本多監督曰く「潜在能力は高いが固くなっていた選手達」は決勝の終盤でやっと本領を発揮したが、まだ、4番・原田、5番・三浦が復調したとは言えない。春日部共栄が勝ち進むために彼らの復調は必須。甲子園で彼らが塁上を駆けまわることができれば、春日部共栄の上位進出が見えてくるだろう。

(文=南 英博

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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