小松vs帝京第五
野武士集団・小松、手負いの第3シード・帝京第五を下す!
まず、このことから触れなければいけないだろう。
帝京第五のエース・最速142キロ右腕・中野 翔太(3年・投手・右投右打・182センチ82キロ・ナガセボーイズ(大阪)出身)は今大会、ついに登板なしに終わった。
その理由は右足首にできた腫瘍である。
7月1日に[stadium]坊っちゃんスタジアム[/stadium]で行われた練習試合・大洲戦でも彼の持ち場はベンチから声をかけることがほとんど。投げることはおろか、走ることすら困難な状態であった。
「悪性ではないんですが、いつ治るかわからない。原因もわからないんです」と語る楠本 雄亮監督も苦渋に満ちた表情。大会直前でエースを欠く非常事態が、チームに与える影響は当然、計り知れない。
それでも帝京第五はよく闘った。
4対4で迎えた7回表には3番・松本 将太(3年・中堅手・右投左打・176センチ77キロ・松原ボーイズ(大阪)出身)の絶妙バント安打やダブルスチールなどでチャンスを拡大し、二死二・三塁から5番・伊丹 拓巳(3年・一塁手兼投手・左投左打・182センチ75キロ・新居浜リトルシニア出身)が右前へ勝ち越し2点適時打。
2点ビハインドで迎えた9回二死ランナーなしからも、松本将の右中間二塁打に続き、菅 彰太(3年・二塁手・右投右打・170センチ67キロ・貝塚シニア(大阪)出身)が主将の意地を示す右前適時打。二死三塁とあわや同点の場面を演出した。
その一方で、帝京第五の3投手は愛媛小松打線に9安打8四死球を与え、守備も3失策が全て失点に絡んだが、精神的動揺を鑑みれば、彼らを責めることは決してできないだろう。
むしろ称えるべきは四半世紀ぶりにベスト8進出を決めた愛媛小松の側だ。
今治西監督時代、切れ目のない打線で甲子園でも旋風を巻き起こした宇佐美 秀文監督の下、うっそうと茂る森の向こう、丘の上にある学校グラウンドで冬にスイングスピードの下地を調えてきた野武士集団は、初回からスイッチを入れる。
愛媛小松は一死一・二塁から4番・大上 拓真(2年・捕手・右投右打・176センチ78キロ・新居浜ボーイズ出身)がスイング鋭く、速い球脚で三遊間を破る適時打で先制。
その後は一進一退の展開となるも、3対5で迎えた7回裏には、2番手左腕として試合を作った9番・日野 文斗(3年主将・投手・左投左打・172センチ75キロ・西条市立西中出身・Kボール愛媛県中学選抜)の勝ち越し遊撃内野安打など打者9人を送り込んでの4得点で試合を決めた。
ちなみに大上はそれぞれタイプの異なる3投手や、ピンチで浮き足立ちそうになる上級生内野陣を大きなゼスチャーで落ち着けるリーダーシップも光った。
こうして第3シードを破り、なんと四半世紀ぶりとなる夏の愛媛大会ベスト8進出を決めた愛媛小松。
ここから先は未知の世界であるベスト4、そして甲子園を目指し、新たな挑戦が始まることになる。
(文=寺下友徳)