試合レポート

山村国際vs花咲徳栄

2014.07.10

優勝校の一角、花咲徳栄まさかの一回戦敗退

 開会式直後の埼玉大会初っ端、まさかの波乱が起こった。県内でも無名の山村国際昨年春の選抜出場校、3年前の選手権大会出場校の強豪、花咲徳栄が接戦の末破れてしまったのだ。
山村国際は一部でその存在が知られていた。3番を打つ堀内 汰門(3年・捕手・右投右打・175cm/75kg)の強肩が大会前、専門誌で紹介されていたからだ。無名校に突然変異のように本格派投手が出現することはたまにあるが、高い技術とチームプレーが要求される有望株の野手が現れることはほとんどない。とくに捕手はない。堀内が本当にプロが狙うような逸材なら、山村国際に逸材が出現する土壌・環境あると考えるほうが真っ当である。というわけで、興味津々で[stadium]大宮公園球場[/stadium]に向かった。

 花咲徳栄は強豪らしく山村国際の守りの切り崩しを狙った。とくに中心的存在の捕手、堀内を揺さぶった。堀内が自信を持っている強肩を序盤に無力化すれば、それは即ち山村国際の力を半減することである。
3回に死球で出塁した9番増田 誠也が二盗に失敗して2死になるが、やはり死球で出塁した2番多田 友哉が二盗に成功し、3番古川 澄也の中前打で先制。さらに多田が二盗に成功して、ペースは完全に花咲徳栄がつかんだ、かのように思われた。しかし、そこから山村国際は崩れない。

 目を引いたのは外野陣の深い守備位置だ。抜けたと思った打球がことごとく正面で捕球されアウトカウントが積み重なり、外野フライは合計11個に及んだ。そして背番号「3」の先発・酒巻 大輝(2年)が実に心憎い軟投で花咲徳栄打線を手玉に取っていく。

 早いテンポでありながら投球の多くはスローカーブという時間差投球が花咲徳栄打線を翻弄、それに苛立つ花咲徳栄打線はどんどん軟投にはまっていく。とくに4回表に味方打線が2点取って逆転すると、花咲徳栄打線の苛立ちはさらに加速する。注目した1番の好打者、里見 治紀(2年)などは第3、4打席、ともに初球を打って凡退している。


 活路を見出そうとしたのか2死走者なしから安打で出塁した2番多田が好スタートを切って二盗を企図するが、落ち着きを取り戻した山村国際の捕手・堀内は1.90秒のスローイングで間一髪アウトにする。策士策に溺れるとはこのことである。

 堀内とともに好捕手として注目を集めていたのが花咲徳栄の6番・高杯 翼(たかつき・3年・右投右打・170cm/73kg)だ。
イニング間の二塁スローイングは私のストップウォッチで1.96秒を計測し、実戦では6回に1.87秒、7回に1.95秒で二盗を阻止した。このレベルの強肩は全国的に見ても希少だろう。5回には一塁けん制で1.57秒を計測。これは強肩だけでなく、ゲームへの参加意識の高さをも物語っている。ちなみに、この一塁走者は2死から二盗を企図し、このときの高杯の二塁スローイングは2.06秒だった(打者が三振してその前にチェンジしているが)。

 花咲徳栄の先発・井上 祐太(3年)もよかった。
4回2死まで山村国際打線をノーヒットに抑え、奪った三振は毎回の5個。ノーヒットノーランが達成される可能性があると一層目を凝らし、その投球内容の詳細をノートに書き出したほどだ。4回2死走者なしから3~5番に3ボール2ストライクから四球を与えたことは痛恨の極みだろう(私には主審のジャッジが突然厳しくなったように見えたが)。

 この2死満塁で打席に立った6番酒巻は1ボールからストライクを取りにきた真ん中のストレートを見逃さず捉え、走者2人を迎え入れる逆転打を放つ。試合はこのスコアのままゲームセットするのだが、5回には両校の捕手による強肩が披露され、投手は酒巻、井上ともにスコアリングポジションへの進塁を許さず、まことに見事なせめぎ合いを見せた。まさか優勝校の一角、花咲徳栄が1回戦で敗れるとは思わなかったが、まさか開会式直後の試合がこれほど手に汗握る好ゲームになるとも思わなかった。

(文=小関順二

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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