百合丘vs川崎工科
百合丘・齋藤俊輝君
攻守にまとまる百合丘、終盤にミスで追い上げられるも何とか逃げ切る
初回に、四球と二つのバントがいずれも安打になるなどして無死満塁としながら、連続三振で好機を逸しかけたところで、6番飯野君の右前打で何とか先制した百合丘。三回にも、連続死球からチャンスを作り、4番上坂君の右前タイムリー打に、相手の外野飛球失策などもあって3点を追加し、五回にも3番村上君の一塁線を破る二塁打から始まり、バント失策とスクイズなど、相手ミスにも乗じながらさらに2点追加。
前半は百合丘のペースで進み、余裕の展開でもあった。先発の齋藤俊輝君も、左腕からの持ち味の大きなカーブを有効に使い、好投していた。
しかし、8回に失策絡みで4点を奪われ追い上げられて、冷や汗ものの展開となったが、9回は左サイドの変則タイプ廣瀬君が締めて、何とか逃げ切った。
OBでもあり長年、外部招聘監督として百合丘を指導し、この大会も監督登録でベンチ入りしている宮地洋人総監督は、
「今年は久々にチーム状態がいいなというのが実感です。客観的に見て、今年のチームは関東大会に進出した時のチーム(2004年)に匹敵するくらいの力はあると思います。投手力はあの時の方が、しっかりとした二枚看板がありましたが、打線としては今年の方がいいんじゃないかと思います。それに、1番から3番までを打っている外野手が、いずれも足が速いし、攻撃力はありますね」
と語っていた。
小池健一監督(登録は責任教師)も、
「本当は、こういう試合はきちんと完封して欲しいんですけれども、八回にあんな形になってしまうというところは、今後の課題となるでしょう」
と言いつつも、
「相手のミスにつけ込んで、点を取って行けということは、いつも言っていますから、それが出来たのはよかったです」
と、三回、五回の得点は評価していた。
好守備を見せた川崎工科・江越君
川崎工科としては八回、見事な食い下がりだった。齋藤俊君にもやや疲れが見えかかってきたところでもあったのだろうが、9番三田君が安打すると、2番山田君も安打して一死一二塁。ここで生方君のあわや併殺かという打球が失策を招いて1点を返すと、頼りになる4番江越 啓太君が「待ってました」とばかりにファーストストライクを叩いて左中間にライナーの二塁打で2者を帰した。さらに江越君は自分の判断で三塁盗塁を決めプレッシャーをかけ、さらに1点をもぎ取っている。
江越君は、中央ではあまり知られてはいないものの、スケールも大きく攻守に素晴らしいセンスが感じられる選手である。大平泰幸監督も、
「上で野球を続けて欲しい選手ですね。育成でもいいですから、どこかプロで指名して欲しいと思っています。この1年で、気持ちの部分でもすごく成長してきていますし、ウチのようなチームではちょっと抜けた存在です」
というくらいに、攻守のセンスに溢れている選手だ。この日も、この二塁打だけではなく2安打し、守りでも三遊間の深い打球を逆シングルで捕るや否や送球して刺すなど、質の高いプレーも見せていた。
また、四回からリリーフした森君は、スピードはあったがリリースがバラバラで1試合に10個以上の四球を乱発していたのを、大平監督が一旦横回転にして体の軸がぶれないように作って、それからもう一度上手投げにしたことで、制球が整ってきた。スピードそのものはかなりあるので、これも楽しみな選手である。大師から異動して、昨秋からチームを見るようになった大平監督は、試行錯誤しながらも、磨けば光る逸材がいるチームでもあり、チーム作りの面白さを改めて実感しているようだ。
また、コーチャーボックスに走っていく選手が、相手ベンチ前や本部席前で立ち止まって深く一礼することも徹底させている。こういうところにも、チームとしての意識を育むために意図的にこだわっているというところもあるという。こうして、全体の意識を高めながらチームを作っていく、これもまた大事な高校野球のスタイルなのである。
(文=手束 仁)