向上vs橘
市立橘2年生左腕・寒水君
つなぐ野球が持ち味の向上、二発で薄氷の勝利
穏やかな春の陽光の下で、テンポのいい投手戦が展開された。
市立1907の先発は左腕寒水(かんすい)君で、どちらかというと華奢に見えるタイプなのだがまだ2年生。これから、体ももっと出来てくるであろうが、制球力があり、カーブなど変化球も微妙にタイミングを外していく、文字通り技巧派である。
実は、南生田中学時代から実績のある投手で、中学時代からバッテリーを組んでいた上條君と一緒に入学してきて、チームの中心的存在になっている。このバッテリーはじめ、1907は新2年生が中心となっているチームでもある。
これに対して、向上は力投型の高橋 裕也君が先発。この試合が県大会の初戦になったということもあって力みもあったのだろうか。球の力はあるけれども、いくらか球筋がバラツキ気味かなという感じでもあった。
それでも、前日に接戦を制してきて勢いに乗っている1907打線に対して、終わってみれば内野安打を含めて6安打、1失点という内容は、悪いなりにはよく投げていたということであろうか。
二人の投げ合いで始まった試合は3回、向上が一死から1番の三廻部(みくるべ)君がライトへソロホーマーして動いた。
しかし、1907も粘って4回、3番福田君と5番肥後君の二塁打ですぐに追いついた。いずれも、高橋裕君にとっては、ちょっと勝負を急ぎ過ぎたところもあったかもしれない。
「点取った次の回だ、この回大事だよ、締まってっていこう」と、守りに入る前に捕手の安達君が声をかけていた直後だっただけに、いくらか悔やまれるところでもある。
本塁打を放った向上・安達捕手
こうして1対1のまま、後半戦に入って行ったのだが6回、向上はこの回先頭の4番安達君がレフトへライナーの本塁打を再び突き放した。
結局、試合はこの一発が決勝点になり、向上の得点は2本のソロ本塁打、1907も二塁打2本での1点という非常にわかりやすい得点経過の試合となった。もっとも、それだけ両投手も要所はしっかりと投げて、引き締めていたということも言えるのであろう。
向上の平田隆康監督は、
「本当は、つないでつないで、細かく点を取っていくチームなんですよ。それが、今日は相手の左投手の変化球を我慢しきれずに、見切ることが出来なくて振りに行ってしまったことで、こういうことになってしまいました。試合中も何度も(しっかり見切れと)言っていたんですけれども…、いい勉強になりました」と、振り返っていた。
そうした中で、「考え方もしっかりとした自分のものを持っていて、一番頼りになる選手」と平田監督も信頼を寄せている安達君が決勝アーチを放ったというのは、チームとしては意味が大きいであろう。
3年前の春季大会では、関東大会に進出も果たしている向上だ。地元開催で出場枠の広がっている今春も、密かに狙いたいところであろう。
寒水君の好投に報い切れなかった1907だったが、2年生の多いチームでもあり、今後の伸びシロも十分に期待出来そうな雰囲気だった。
(文=手束 仁)