試合レポート

八戸学院光星vs花巻東

2013.10.18

八戸学院光星vs花巻東 | 高校野球ドットコム

中川優投手(八戸学院光星)

出られなくなった女房役のために!

9回裏、2対1。
八戸学院光星の1年生右腕・中川優は、最後まで強い気持ちを持って花巻東の打者に対した。
最後のバッターをレフトフライに打ち取り、大きくマウンド上で吠える。そして様々な感情が溢れてきた。
「色んなことが頭に浮かんで」と気持ちを話した中川。東北大会準決勝という試合の意味、そして試合中の出来事など、精神的に苦しくなっても気持ちを切らすことなく、マウンドを守り抜いた。

1回の花巻東、3回の八戸学院光星と、両チームとも1点目をバッテリーミスで挙げた序盤。先に1点を失った中川は、「調子は良かった」と話したものの、相手打線に何度も痛打された。
再三のピンチ。背番号12のキャッチャー・馬場龍星(1年)とともに何度も凌いだ。

「真っ直ぐが走り、スライダーも良く曲がっていた。インコースにしっかりと投げられていたことが良かった」と中川。女房役の馬場も冷静に打たせて取ることを心がけ、守備陣のリズムを作る。

そのリズムが5回表の攻撃に繋がった。
八戸学院光星は一死一塁で打席は2番足立悠哉(1年)。ここまで二度無死一塁で打席が廻ってきていた足立は、花巻東のエース・細川稔樹(2年)から、送りバントを決められないでいた。

一死一塁というこの場面で足立がどう出るかを花巻東バッテリーが探る。1球目、意を決していた足立は、三塁線へセーフティバント。これが見事に決まり一塁はセーフとなった。

一、二塁とチャンスが広がって、3番深江大晟(2年)がセンター前へ運んだ。二塁走者の北條裕之(2年)が生還して、待望の勝ち越し点をタイムリーで挙げた。

タイムリーに沸くベンチ。しかし、最大の試練が次の5回裏に待っていた。


八戸学院光星vs花巻東 | 高校野球ドットコム

勝負のポイントになった5回の狭殺プレー

5回裏、2本のヒットと犠打で一死一、三塁とピンチを背負った中川。花巻東の打席は2番三浦哲聖(2年)。スクイズも十分に考える場面だ。

中川が投じた1球目、三浦はやはりスクイズを仕掛けるが、ファウルになった。そして2球目、もう一度スクイズを試みる。投げる瞬間に「走ったのがわかった」という中川はボール気味の球で外した。
三塁走者の遠藤諒(2年)が三本間に挟まれる。狭殺プレーになり、遠藤は本塁へ向かって突っ込んだ。しかしキャッチャー・馬場にタックルをするような形で激突してしまう。馬場は吹き飛ばされるように倒れたが、ボールは手放さない。遠藤はタッチアウトになった。

だが、起き上がれない馬場。激突の瞬間に、脳震盪をおこしていた。
この瞬間に「カーっとなってしまった」という中川。守備陣も興奮状態を隠せず、走者の遠藤には渡辺浩二球審から注意が与えられる。球場内は異様な空気に包まれた。馬場の治療のため、試合は16分間中断した。

この間に、審判団に認められて、両チームの選手がベンチに下がる。八戸学院光星の仲井宗基監督は、自らの感情を抑えながらも、選手たちに冷静になるように促した。

結局、馬場はグラウンドに戻ることが叶わず、病院へ。代わりに主将の千葉諒(2年)がマスクを被ることになった。

【危険防止ラフプレー禁止ルール】が適用され、二塁に進んでいた走者も一塁へ戻されて試合は再開。
「馬場のためにも絶対に勝つ」と中川の気合が増した。打席が続いていた三浦に渾身の球を投げ、三振に切った。

「気持ちだけでした」と走者が戻されたことの利点ではなく、打者勝負の心境だったことを話した中川。6回、7回とさらにピンチを招いたが、気合いの入った球を投げて、得点を与えなかった。

7回には三塁走者・遠藤で打者が三浦という同じようなシチュエーションもあったが、ここは馬場の代わりにホームベースを守る千葉が、遠藤とのクロスプレーを必死で耐えてタッチアウトを取った。

9回、勝利を決めた瞬間、「一喜一憂してはいけないのですが」と話したものの、仲井監督も喜びを爆発させた。
様々な感情、ピンチの連続に「苦しかったが全員野球で勝ち取った」と千葉主将。中川も「自分よりみんながしっかり守ってくれた。全員で勝ったと思います」と強調した。
一つのプレーでチームの絆がより一層深まった八戸学院光星。1年生右腕は最後に、「決勝も勝って、神宮でも優勝して来年甲子園に行きたい」と抱負を語った。

(文=編集部

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.04.29

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.28

【広島】広陵、崇徳、尾道、山陽などが8強入りし夏のシード獲得、広島商は夏ノーシード<春季県大会>

2024.04.28

【岡山】関西が創志学園に0封勝ちして4強入り<春季県大会>

2024.04.28

【富山】富山商、氷見、未来富山などがベスト16入り<春季県大会>

2024.04.28

【鳥取】鳥取城北が大差でリベンジして春3連覇<春季県大会>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.29

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.24

春の埼玉大会は「逸材のショーケース」!ドラフト上位候補に挙がる大型遊撃手を擁する花咲徳栄、タレント揃いの浦和学院など県大会に出場する逸材たち!【春季埼玉大会注目選手リスト】

2024.04.26

今週末に慶應vs.横浜など好カード目白押し!春季神奈川大会準々決勝 「絶対見逃せない注目選手たち」!

2024.04.23

【春季埼玉県大会】地区大会屈指の好カードは川口市立が浦和実を8回逆転で下し県大会へ!

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.29

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.05

早稲田大にU-18日本代表3名が加入! 仙台育英、日大三、山梨学院、早大学院の主力や元プロの子息も!

2024.04.02

【東京】日大三、堀越がコールド発進、駒大高はサヨナラ勝ち<春季都大会>

2024.04.12

東大野球部の新入生に甲子園ベスト4左腕! 早実出身内野手は司法試験予備試験合格の秀才!