東陵vs角館
東陵が8回に一挙7点を奪うが・・・
壮絶な終盤!勝負の結末は・・・
「野球は怖いなと思いました」。
延長10回、3時間10分のゲームを終え、勝った東陵の千葉亮輔監督はこう呟いた。イニングスコアを見るだけでも、この試合の壮絶さが見て取れる。
7回裏に2点を追っていた角館は、1番佐藤星太(2年)の2ランで同点に追いつく。この一発が、終盤の激戦への呼び水となった。
直後の8回表、リリーフしていた角館の小笠原翔太(2年)が、先頭打者のストレートの四球を与える。「厳しいコースがストライクにならず、ボールになって苦しかった」と話すのはキャッチャーで主将の千葉天馬(2年)。
ここから東陵はバントで揺さぶり、角館の守備陣を崩してチャンスを広げた。そして1番山﨑誠悟主将(2年)の勝ち越しタイムリーなど、打線が繋がった。
角館はエースナンバーの相馬和輝(2年)を投入して食い止めようとしたが、流れは止まらない。相馬は打者1人で降板し、若松達也(2年)、高橋璃樹(1年)へと投手を繋いだ。
同点だったのが、気がつけば8回表に7点が入っていた。東陵にとっては完全な勝ちパターン。裏の守りを抑えればコールドゲームになる。先発した佐藤洸雅から、岡本直己への1年生リレーも、勝利への形だった。
しかし8回裏、岡本も四球からピンチを背負う。一死満塁となって9番に入っていた高橋璃がライトへタイムリー。さらに1番佐藤の犠牲フライで計2点が入り、角館が9回まで戦える形を作った。
そして9回裏、角館は先頭の3番長澤征哉(2年)がショートへ内野安打を放つと、打線が繋がる。5連打で2点を返し、3点差。全校応援の角館スタンドが盛り上がる。逆に苦しい流れの東陵・千葉監督は岡本の交代を決断した。
マウンドに上がったのはこの秋初登板の小野寺郁人(2年)。投球練習を終えると、空を見上げて落ちつこうとした。だが最初の打者となった8番赤倉匠(2年)への初球が体に上がってしまう。さらに9番高橋璃に対しては四球。連続押し出しで1点差となり、1番佐藤から左打者が並ぶ打順になって、小野寺は降板。今度は左腕の早坂朋稀(1年)がマウンドに立った。
本塁で角館のサヨナラを阻止した東陵
この早坂もこの秋の公式戦登板がない。場面はまだ無死満塁で極限のプレッシャーが襲いかかる。
打席の1番佐藤は、早坂の投球練習を見て、狙いを定めた。
初球、早坂の球に逆らわずにスイングした打球が三遊間を破った。ついに同点。サヨナラの走者となる二塁走者の赤倉は三塁でストップ。次の2番小松陸(2年)に勝負は託される。
東陵はショートの工藤が何度もマウンドへ足を運び、センターの山﨑主将は遠くから大きな声で檄を飛ばす。
『次に三塁走者が還れば、ゲームは終わる』
そんな空気の中でも、二人の野手は冷静だった。1ストライクから早坂が投じた2球目、小松陸が放った打球が、センター・山﨑へのフライとなった。捕球の瞬間にタッチアップのスタートを切った走者の赤倉を見ても、山﨑は慌てなかった。
「自分はそこまで肩が強いわけではないので、しっかりとカットに返そう」。
ショートの工藤も、「捕球体制が良くない」と察し、本来のカットマンであるファーストの伊藤匠哉(2年)ではなく、自分がカットに入るべきと決断した。
山﨑から工藤、そしてキャッチャーの伊東拓人(2年)へ返球がくる。走者の赤倉は、本塁でタッチアウトとなった。
緊張状態の早坂に対して、外野から大声を発することしかできないセンターの山﨑。それでも、「連打を浴びた時も、自分の所には飛んでこなかった。だから飛んで来いと思って気持ちの準備はできていました」と話す。
角館の湯澤淳監督は、「浅めのフライだったが、あれは(本塁に)行く場面。相手の連係プレーがしっかりしていた」と東陵の守備を讃え、「あれで流れが止まった」と感じた。
二死一、二塁と場面は続いたが、このイニング2打席目となった3番長澤は見逃し三振。ゲームは延長へと突入する。
サヨナラを防ぎ、もう一度攻撃の機会を得た東陵は10回、二死一、三塁から2番工藤が左中間への長打。2点が入り、今度こそ決勝点となった。
サヨナラ負けを防いだ時、そして決勝点の時とベンチで号泣をしていたのが、四死球でアウトを取れなかった小野寺。その背中を主将の山﨑がさする。「小野寺は、とても元気が良くて、ムードメーカー。あいつの声で僕たちはいつも助けられていた。お前が泣いちゃいけないよ」と話したことを明かした主将。隣では、勝ちパターンのマウンドを守りきれなかった背番号10の岡本も、顔を上げられなかった。
投手陣の涙が、マウンドにいる男たちの精神状況を表しているようでもある。
お互いが勝負に対して意地と意地でぶつかって初めてできるようなゲームであった。こんなゲームは、やろうと思っても簡単にはできないだろう。
一方で敗れた角館は、コールドゲーム寸前から9回まで戦える形にして、追いついた。これは“9回まで戦ってこそ”という野球の本質を実証したと言える。
「最後まで自分達のやってきた野球を一生懸命やろう。ミスが出たら、ちゃんと考えて次に直そう」と選手に語っていたという湯澤監督。
先発の伊藤が早く降板し、エースの相馬が本調子ではないなか、必死に耐えて怒涛の攻撃へと繋げたことは大きな収穫だったようだ。
(文=編集部)