青森山田vs盛岡大附
青森山田が盛岡大附を1点差で下す
絶対的エース・松本裕樹(盛岡大附)
この日は3試合が行われた。
第1試合開始は9時開始。透き通った青空が爽やかだが、風は冷たくて強い。
球場を眺めていて、ふと思い出したのは、去年5月の花巻地区大会のことだ。花巻東の3年生だった大谷翔平(現北海道日本ハム)はここ[stadium]花巻球場[/stadium]で、1試合で2本の場外ホームランを放った。美しい弾道だった。ここに来るたびに、あの打球はどこに落ちたのかと、外野の向こう側を歩いていて思う。
さらに、春の岩手県大会で、相手の大東が外野手を4人する「大谷シフト」を敷いた。左翼線寄り、左中間、右中間、右翼線寄りの4人。サードはがら空きだった。大谷は、バスターの打ち方で、バットにちょこんと当ててサード方向に打球を転がし、内野安打にしてみせた。いないところに、打てばいいのだ。
あの春から、もう1年以上が過ぎ、世代はまた変わった。来春の選抜大会出場を懸けた戦いが繰り広げられている。「大谷伝説」が作られた[stadium]花巻球場[/stadium]で、今日もまた、どんなドラマが生まれるのか。
この試合は青森山田の先攻で始まった。
盛岡大附の先発は、絶対的エース・松本裕樹。“3連投”の疲れか、球はあまり走っていない。速球は130㌔中盤。青森山田の1番・中川奏太郎は、7球目をセンター前ヒットにした。
松本がグラブを出したが、そのわずかに上をライナーで抜けていったのだ。
2番・中井諒はスライダーに空振り三振。ここで3番・水木海斗。この春、青森山田中から入学してすぐにレギュラーをつかんだ選手だ。青森山田中から進学して、先輩もたくさんいるからだろう。1年生とは思えないほど、周りによく声をかける選手で、外野には身振り手振りで指示を出す。
ピッチャーにも、いつも“激励”している。1ストライクからの2球目を左中間へ運んだ。一走・中川は一気にホームへ。水木は二塁を回ったが、迷いもあって進んだ三塁でタッチアウト。走塁のまずさはあったが、先制点を挙げた。
青森山田バッテリー(柴田投手、安井捕手)
青森山田の先発は、130㌔中盤から140㌔をコンスタントに投げ込む柴田祐斗。盛岡大附は2番・伊藤航がボテボテのサードゴロを内野安打にして出塁。盗塁と暴投で三塁に進んだが、4番・菜花大樹の右翼線に飛んだ打球を青森山田のライト・中川がダイビングキャッチ。
1点を返すことができなかったが2回、一死から6番・遠藤真がレフトへ本塁打を叩き込み、同点に追いついた。
そこから試合は投手戦になった。
盛岡大附・松本は3回から指にかかったボールがくるようになり、1、2回よりもキレが増しているように見えた。味方のエラーやファウルフライを落とされるといったミスもあったが、気持ちが切れることはなかった。
青森山田・柴田はランナーを出しながらも踏ん張った。ストレートは130㌔後半から140、141㌔と球速を示した。この日の最速は143㌔。もともとの最速が140㌔だったそうだが、初回で141㌔を放っているので最速を更新したことになる。140㌔は4球マークした。
1対1のまま、9回に入った。
先攻は青森山田。
得点した初回以降、2回から8回までのヒット数はわずかに2本。3回から8回まで7つの三振を喫していた。
この回先頭の左打者の5番・蝦名教博は、松本の135㌔の内角直球を見逃し三振。盛岡大附・松本の好調さに、あと二死をどう奪うのかと考えていると6番・岡崎誠也の打球はセンターの頭上を襲った。三塁打となり、青森山田はまたとないチャンスを作った。
一死三塁。松本はこれで動揺するようなピッチャーではないが、気持ちが切れたのか。7番・柴田への初球が死球となり、一死一、三塁。代打・岡田元気は四球で青森山田は一死満塁とした。
9番・中村竜也は捕手。8回裏、無死から2四球を出した後、先発マスクをかぶっていた安井研斗から交代していた。打席はこの日、初めて。打球は遊撃手の横を抜けてレフト前に抜けて行った。均衡が破れた。さらに1番・中川がセンターフライを打ち、三走・柴田がホームへ。盛岡大附のセンター・菜花の送球はワンバウンドのストライクで、タッチアウトかと思われたが、判定はセーフ。青森山田が2点を加え、3対1とリードして9回裏に入った。
接戦をものにし勝利を喜ぶ青森山田ナイン
盛岡大附は4、5、6回と3イニング連続で先頭を四球で出しおり、7回にも3四球で満塁を“もらっていた”が得点に結びつけられていなかった。四球をもらうより、ヒットで道を切り開くべきなのか。
盛岡大附は2番・伊藤から。一二塁間の打球に青森山田のファースト・藤森大成が追いついたが、セーフ。
無死一塁で3番・松本。1打席目は一死一塁で変化球に三振。一死一塁での2打席目は、青森山田のショート・中井がセカンドベース寄りに守っていて、打ち取られてゲッツー。3打席目は二死二塁でレフトフライとチャンンスを生かせなかった。4打席目はストレートの四球。消化不良で迎えた5打席目。138㌔のストレートをライト前ヒットにし、無死一、二塁と好機を広げた。しかし、菜花がライトフライに打ち取られて1アウトが増えた。
盛岡大附は5番・前川剛大への初球でダブルスチールを成功させ、一死二、三塁とした。今大会からキャプテンを務める前川は4回の無死一塁でバントを打ち上げて失敗し、7回の二死満塁では141㌔のストレートで空振り三振に倒れていた。
その悔しさもあっただろう。レフト前に1点差に迫るタイムリーを放ってみせた。一死一、三塁で前川に代走・萬慎吾。打席は2回にホームランを放っている6番・遠藤。1ボールからの2球目。セーフティスクイズを試みたが、遠藤は空振り。三走・松本は戻れずタッチアウト。さらに、一走・萬も二塁でアウトになり、ゲームは終わった。
展開が良かっただけにあっけない幕切れではあったが、我慢比べで見応えのある試合だった。
(文=高橋昌江)