報徳学園vs市川

無四球シャットアウトの中村誠投手(報徳学園)

一戦毎に逞しく！

試合後のミーティングで開口一番、｢ナイスゲーム｣と話した報徳学園の永田裕治監督。
大量8得点を奪い、エースの中村誠報徳(2年)が無四球の2安打シャットアウト。近畿大会出場を懸けた準決勝を7回コールド。1時間30分の完勝で3年連続の秋・決勝進出を決めた。

まずゲームのリズムを作ったのがエースの中村。立ち上がりの1回、兵庫市川の1番福島一都(2年)に対しての場面。先に2ストライクと追い込みながら、ファウルで粘られるなどして、気がつけばフルカウントになっていた。ピッチャーとバッターの“根比べ”でもあったが、｢粘り負けしてはいけない｣と中村は強気だった。8球目、高めの球に手を出した福島の打球はレフトフライ。福島との勝負を制した。

続く2番松平優紀、3番若松亮太朗(ともに2年)をそれぞれ2球ずつで打ち取り、リズムに乗った中村。中盤以降に雨が強くなり、兵庫市川の投手陣がコントロールに苦しむ中でも、中村は落ち着いたピッチング。3ボールになっても冷静にカウントを整えるなど、抜群の制球で凡打の山を築き、三振も7個奪った。

｢背番号10の田中和馬、キャッチャーの岸田行倫(ともに2年)もピッチャーとして準備をさせましたが、中村でいこうと決めました｣という永田監督の期待に応えた。

中村は春の大会でベンチ入りし、県大会終盤でも先発を果たしている。しかし、夏はベンチを外された。｢力が足りなかった｣と夏の悔しさを振り返る。その夏に、同級生の田中がベンチに入り、重要な試合でも登板した。春以降にピッチャー練習を始めた岸田も台頭。新チームは絶対的なエース不在の中で、指揮官は｢彼の良さは勤勉さ｣と、中村に秋のエースナンバーを託した。

とはいえ、秋が始まっても首脳陣から『真のエース』という立ち位置にまでは至っていなかった。
ただ週単位でゲームがある秋は、1戦毎に逞しくなる選手が多い。中村もその可能性を十分に持った一人。
先週の準々決勝・明石商戦。9回にあわや同点という場面まで苦しんだ。そこから、｢この一週間は、明石商戦の(苦しい)場面を想定して練習してきました｣と反復に力を入れたという。

苦しさを経験し、一回り逞しくなりつつあるエース・中村。｢今日のようなピッチングができれば｣と、決勝、そして近畿大会へ向けて自信にしたい気持ちを話した。

3回、2番大畑が振り切ってエンドランを決める

さて打線は、1回、2回と兵庫市川の先発・吉田渉(2年)を打ちあぐねたが、二巡目となった3回に攻略した。
｢先週(明石商戦)は策を与えましたけど、今日は選手に狙う球を任せました。ただ、バットに当てにいかないように、打たされないようにとは言いました｣と永田監督。

この3回は、一死から1番比嘉翔太(2年)がレフト前ヒットを放つ。左打者である比嘉がバットを振り切った上で、打球は逆方向のレフトへ飛んだ。これが吉田攻略の起点となる。

続く2番は大畑幸平(2年)。報徳学園サイドは伝統である足で揺さぶりをかける。1ボールからの2球目、一塁走者の比嘉がスタート。これを見てポジショニングを変えたファーストの若松を狙う形で、大畑がバットを振り切った。痛烈な打球が若松の横を抜け、ライトへ転がった。ヒットエンドランが成功した上に二塁打。当てにいかず振り切ったことで、吉田のピッチングリズムを崩した。
3番石垣昭二(2年)、4番岸田が連続四球。押し出しで報徳学園が1点を先制。さらに5番普久山拓海、6番福原雄大(ともに2年)の連続タイムリーで3対0。兵庫市川の吉田はここでマウンドを降りた。

二番手で上がったのは背番号11のアンダーハンド・石原光彩(2年)。これには報徳学園サイドも、｢予想してなかった｣(永田監督)。兵庫市川の勝ちパターンとしては、背番号18の尾上昂央(2年)が上がることが予想された中で、牛尾昌宏監督は石原を送った。
｢連戦なので、そこを考えたのですかね｣と相手の心境を読む永田監督。

このゲームでもし敗れても、翌日の三位決定戦で勝てば近畿大会に出場ができる。確実に2日間試合があるだけに、どの監督もピッチャーの起用法を慎重に考えるのが常で、状況によっては『次にダメージを残さない試合にする』ということも重要な要素になる。
両チームの駆け引きが大きくなる中で、ここで勝負をかけたい永田監督が、打席の7番土谷勇輔(2年)に大きな檄を飛ばした。

「経験がない(ピッチャーだ)ぞ！」

その土谷が、石原が投じた初球をレフトへ弾き返す。勝負の流れを決定づける4点目。
エースを攻略し、一気呵成に攻め、ビッグイニングとした報徳学園。次の4回にも二死からチャンスを作り、普久山の2点タイムリー二塁打などで4点を追加。結局、兵庫市川は尾上を温存した。

｢旧チームのメンバーで試合に出ていたのは岸田だけ。弱いと言い続けてきたが、繋ぐ野球ができた｣とここにきて少しずつチームの成長を感じている永田監督。二期制を敷く同校は9月30日に前期終業式があり、10月1日から秋休み。｢一週間しっかりと練習できた｣(福原主将)と試合に向けた準備が入念にできているのも強みだ。
秋は二連覇中。最後にミーティングで、｢返還した優勝旗を持って近畿大会に行こう｣と三連覇達成を誓った。
　

(文＝編集部）