芝vs都立光丘
都会っ子の大型左腕、じんわりとその潜在能力をアピール
芝の二塁手・渡辺君
学校から見上げれば東京タワーがあるという立地の芝。
そんな東京のど真ん中のところだから、当然のことながらグラウンドには恵まれていない。それでも、中高一貫校の仏教系の進学校で、麻布、開成、武蔵のいわゆる御三家と言われるグループに続く存在として、受験校としては高く評価されているところだ。
そんな芝の野球部が、この秋は野球でも少し注目を浴びようとしている。
というのも、身長188cm体重80kgという大型左腕の田中裕貴君が成長してきているからだ。そして、田中投手に引っ張られるように内外野も手固くなってきているという。
中高一貫校の芝は、原則的には高校段階での加入はないので、中学部の野球部がそのまま上がってくるということになる。中学のチームは、クラブチームとしてシニアに登録している。だから、硬式球に対する慣れは比較的早い段階からできているのだ。
特に、内野陣は、鮮やかとは言えないまでも、きっちりと打球処理していく形はできており、守りから崩れていくということは、そんなにはないようだ。
この試合ではことに、二塁手の渡辺君などは、難解な打球を上手にさばいていた。
これで、いくらか立ち上がりから苦しんでいた田中投手を援護することもできていた。田中君自身も、前半はリズムも悪くて、いわゆる置きにいく投球もあって、そこを食い下がってくる都立光丘の打者に叩かれるというシーンもあった。
初回は2安打を浴びたが、センター安部君の好返球で本塁で二塁からの走者を刺した。
しかし3回、都立光丘は2四球とバントで1死二三塁とすると、2番藤村君のスクイズで先制。同点となった4回にも四球と暴投、バントに犠飛で再び都立光丘がリードする。
こうして、都立光丘を芝が追いかけるという展開で進んでいった。田中君も、ここまでもう一つ自分のリズムになり切れていなかったということであろう。
将来が期待される長身左腕、芝の田中君
それでも、4回には4番打者でもある自らのライトへの会心のソロアーチで同点とする。内側やや高めだったが、田中君のツボに入った球だったようだ。打った瞬間に入ったかなと思えるような打球だった。
そして5回、ここまでのらりくらりとかわしてきた都立光丘の先発右サイドハンドの柄沢君が四球を出したところで、柘植義之監督はセンターの長島君と入れ替えた。
本来、長島君がエース的立場だったというが、代わり端はややぎくしゃくした。そこを芝が突いて田中君の同点タイムリー、さらに6番西田君の勝ち越し打が出て、なおも二三塁というところで、飛び出した二走への送球の間に三走の田中君が本塁へ入り、記録上は本盗という形でこの回3点目が入った。自らが得点に大いに絡んだということで、田中君も、この回以降はいい感じで投げていった。
芝は、7回にも失策の走者が出ると盗塁と悪送球で1点を追加。これで、完全に芝の流れとなった。
こうして、注目をされる中で芝は何とか、試合をものにした。
田中央監督は、「とにかくグラウンドがないものですから、夏休みは練習試合を積み重ねていくという形だったんですが、実は3勝21敗3引き分けという惨憺たる成績だったんです」と、試合で調整してきながらも、勝ち負けということでいえば結果が出ないで苦しんできていたことを明かした。それでも、こうして公式戦を飾れることで、21敗は生きたということも言えよう。
「立ち上がりが悪いことはわかっているのですが、そこをどれだけこらえられるかというところです。精神的な部分もあるのだと思います」と、田中監督は今後を見据えながら、メンタルを含めた部分での、更なるアップをしていこうという心づもりである。
先制しながら、結果的には逆転された都立光丘の柘植監督は、「相手の投手がいいので、そんなに点は取れないだろうとは思っていましたから、3点取られたらダメだろうなとは思っていました。前半はいい形だったと思うんですけれどもね。先発がもう少し持ってほしかったです」と、前半のリードをキープしきれなかったことを悔いていた。
(文=手束仁)