試合レポート

鳴門vs常葉菊川

2013.08.18

よそ行きのバッティングになってしまった常葉菊川

  ノーガードの殴り合いになると予想したが、ふたを開けてみれば常葉菊川がサンドバッグ状態になるという予想外の展開になった。常葉菊川は投手力より打撃力に特徴があり、その打撃力も1番から9番までフルスイングを躊躇しない思い切りのよさに特徴がある。こういうチームは勢いのあるときはイケイケでどこまでもいけるが、勢いが殺がれるとまったく力を発揮できないことがある。要するにその日の調子次第でゼロか百かという面倒なチームで、この日はゼロの目が出てしまった。

  17対1という圧倒的な点差がついた最も大きな理由は常葉菊川の投手起用にあったと思う。強打の鳴門に対するには先発した背番号10の渡辺 竜正(3年)は明らかに力不足だった。背番号1の堀田 竜也(3年)が先発しなかったのは初戦の有田工戦が8月14日だったため、中2日ではしんどいだろうという親心からである。しかし、ストレートに力のない渡辺竜を助けようと考えすぎたのか、思い切りのいい打撃に特徴のある常葉菊川打線に異変が見られた。

 たとえば1回の3番遠藤 康平(3年・遊撃手・右右・177/71)、2回の5番大西 優輝(3年・三塁手・右右・188/79)は見逃しの三振に倒れている。遠藤は2球見逃し、大西は3球見逃した末の三振である。思い切りのいい打撃に特徴のある常葉菊川にしては大事に行きすぎた。言ってしまえば“よそ行きのバッティング”をしてしまった。

 1回裏には鳴門打線が早くも渡辺竜に襲いかかる。2つのエラーが出て2死一、二塁のチャンスに5番橋川 亮佑(2年・右翼手・右左・181/75)、6番日下 大輝(3年・捕手・右右・173/75)、7番松本 高徳(3年・三塁手・右右・173/80)が安打をつらね3点を先制した。この3点は常葉菊川打線に焦りを生んだ。大事に点を取りに行こうという気分は、徐々に俺の強打で点を取り返すんだという気分に変わり、各打者の振りが目に見えて大きくなっていった。この焦りを鳴門の先発、板東 湧梧(3年・右右・180/69)はうまく利用した。


 板東の持ち味は横の揺さぶりにある。持ち球は122、3キロのスライダーと105キロ程度のカーブに逆方向に変化する115キロ程度のシンカー。それらを低めに集め、打者の打ち気をはぐらかす。その投球術に常葉菊川打線は翻弄された。1回戦の星稜戦では5三振しかとれなかったのがこの日は8個奪い、そのうちの6個は空振りだった。いかに板東の揺さぶりに乗せられたかわかる。

 4回には鳴門が打者10人を送る猛攻で5点を奪い、勝負は決するのだが、わからなかったのは2番手のリリーフに穂積 大河(3年・左左・174/73)を送ったことだ。静岡大会にわずか1試合・3イニングしか投げていない経験不足の投手をどうして0対3の4回裏、1死一、二塁の場面で起用したのか。ここはエースの堀田を出して、相手打線の勢いを止めることに全力を出す場面ではなかったのか。穂積が打者2人に安打、二塁打され2点を失ったところで堀田がようやく登板したが堀田も3安打され、さらに3点を追加された。

 合計21安打を放ち、大量17点を奪って快勝した鳴門打線を見ながら、初戦で見せた常葉菊川の勢いはどこに消えてしまったのか、しばらく呆然となった。大会屈指の好投手、古川 侑利有田工)を攻略した常葉菊川打線は掛け値なしに素晴らしかった。3番遠藤は大きすぎるバットの引きとドアスイング、4番松木 大輔(3年・捕手・右左・175/76)はリズムをつけて上体を伸び上がらせ、その高い位置からボールを叩くという変則的なバッティングに特徴がある。いわば優等生のバッティングではないが、フルスイングに魅力のあるスラッガーである。それが完璧に抑えられてしまった。

 そんな中で持ち味を発揮したのは6番桒原 樹(2年・二塁手・右左・182/73)である。安打は7回に放った1本だけだが、フルスイングは健在だった。2回は四球で歩いたあと二盗を敢行、激しいスライディングで送球を外野に蹴散らし、三進している。4回にはフルスイングするが打球は当り損ねの遊撃ゴロで、このときの一塁到達タイムが4.30秒と速い。体勢が大きく崩れるほどのフルスイングをしながら一塁まで4.30秒で駆け抜けているのである。いかに脚力があるかの証明である。

 この桒原がもう見られないというのが非常に残念である。

(文=小関順二)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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