明徳義塾vs瀬戸内
瀬戸内の快腕・山岡泰輔と、好球必打の明徳義塾打線
瀬戸内・山岡泰輔、明徳義塾・岸潤一郎が見事な投手戦を展開した。
岸はストレートが最速142キロを計測したが、これは1球だけで、ほとんどは130キロ台中盤から終盤で安定していた。それでもストレートが目立ったのは、高めのボール球を空振りさせるシーンが何度もあったからだ。
始動で上体が伸び上がって、バックスイングに入るとき沈み込むという上下動に特徴があり、これが原因でストレートが抜けているのかなと思ったが、その抜けたと思った高めのストレートを勝負どころで何回も投げ込むシーンを見て、確信犯だと思った。
対する山岡は正統派の本格派で、額縁に入れて飾っておきたいと思うほどきれいな投球フォームに特徴がある。スカウトの人たちが「あと10センチ上背があれば上位候補」と口にするが、今のままでも十分上位候補でないかと私は思う。ストレートは自己最速の147キロに2キロ及ばなかったが、勝負どころで腕を振って投じる低めストライクゾーンの145キロに目をみはった。
変化球は縦・斜めの2種類あり、時折投じられるチェンジアップが抜群のキレを備え、110キロ程度のカーブもある。主体になるスライダーの中でカウント球として使われるのが斜め変化のボール。キレ自体大したことはないが、ドロンとした山なりのボールを振ってアウトになりたくないという打者心理を突いて、カウント球として多投される。しかし、ストレートを含む全球種の中で、唯一死角があるとしたらこの斜め変化のスライダーだと思っていた。このボールを5回に狙われた。
明徳義塾の先頭打者、6番宋皞均(右翼手)が初球に投じられた斜め変化のスライダーを振り抜くと、打球は打った瞬間ホームランとわかる勢いでレフトスタンドに吸い込まれて行った。
広島大会では7試合投げて失点はわずか5と圧倒的なピッチングを展開してきた山岡。とくに語り継がれているのが引き分け再試合になるほどの激闘だった決勝戦で、最初の試合が延長15回、0対0の引き分け。
ドラフト上位候補、広島新庄・田口麗斗との息の詰まる投手戦は今夏、全国で繰り広げられた都道府県大会の中でも白眉と噂された。そして決勝戦の再試合では味方打線がもぎ取った虎の子の1点を守り切り、1対0の僅少差で広島新庄を退け、甲子園に乗り込んだ。
つまり、山岡にとって失点は久しぶりで、慣れていなかった。一死後、8番馬場雄大(捕手)が内野安打で出塁すると、9番岩見昂(遊撃手)のバントを一塁に悪送球して一、三塁、1番矢野優生(中堅手)には四球を与えて満塁にし、2番畑光(二塁手)にレフトへ犠牲フライを打たれ、致命的な2点を失った。この2点目は自滅と言っていいだろう。
山岡のディフェンス能力の高さも紹介したい。1回は一死一、二塁の場面で岸が放った鋭い打球のピッチャー返しを難なく捕って1-6-3の併殺。
3回には一死一塁の場面で矢野の一塁方向へのバントをダッシュして好捕すると、打者と競争するように一塁ベース方向に走り、カバーに間に合った二塁手にトスしてアウトを取っている。7回には一死三塁の場面で、矢野の一塁方向へのバントを果敢にダッシュしてダイレクトキャッチ、飛び出した三塁走者は帰塁できず併殺という具合。本当に文句なしのディフェンスである。その山岡がバント処理を誤るのだから、宋の先制ホームランは精神的にこたえたとわかる。
明徳義塾を勝利に導いたのは好球必打の精神である。2点目をもたらした5回の攻撃で、畑は初球の141キロストレートを空振り、4球目のスライダーをファール、5球目のスライダーもファールにし、6球目の140キロストレートをレフトへ犠牲フライを放っている。つまりストライクコースにきた球はすべてスイングしている。若いカウントのストライクを見逃して、勝負球の難しいコース(多くはボール球)を振って凡退するケースが多い中、畑の好球必打の姿勢は清々しかった。こういうバッティングを他校の選手にもしてもらいたいと思った。
(文=小関順二)