福井商vs帯広大谷
145キロ右腕に投げ勝った119キロ左腕
後に全日程を振り返った際「今大会屈指の好ゲーム」として讃えられるに違いない白熱の試合展開。その主役は敗者の帯広大谷である。
1回表、福井商業が一死二塁から3番・関了摩三塁手の右翼線適時打で先制するも、直後の2回表には一死一、二塁から北北海道大会打率5割超の7番・角雄平三塁手(3年)の中前適時打ですかさず同点。
さらに6回表には、二死一塁から再び角の中越二塁打で逆転。最速147キロ・今大会注目右腕の中村文英(3年)を攻略すると、先発左腕・佐藤和真(2年)も7回まで相手打線を散発5安打に封じる。
しかし、福井商業は8回裏、無死一、三塁と絶好の反撃機を迎えると、5番・安田敦貴右翼手(3年)が意表を突くセーフティークスイズで同点。さらに一死一、三塁から7番・林克哉一塁手がまたもセーフティースクイズを決め逆転。
続く8番・中屋真聡二塁手も代わった田村純平(3年)から三遊間を破る決勝適時打により、この回3点を奪って逆転勝ちを収めた。
全体を振り返れば「勝負に負けて試合に勝った」格好の福井商業。それでも8回裏の集中力に、7回から2番手マウンドに上がり、迫力満点の140キロ台ストレートを連発。3イニングで9回表先頭打者の6番・亀井紳之介(3年)のソロアーチ1点のみでしのいだ右腕・長谷川凌汰(3年)の熱投は、2回戦・聖光学院(福島)との戦いへ向け、明るい材料となった。
エキサイティングプレーヤー
佐藤和真(帯広大谷2年・投手・左投左打・168センチ63キロ)
持ち球は110キロ台のストレート、100キロ台のスライダー、そして90キロから推定70キロ台の超スローカーブ。163センチ・63キロの細身をゆったりと使い、あらゆるコースに全ての球種を使い切って福井商業打線に立ち向かう様は、甲子園では久々に見る「軟投派の極み」であった。
100球を過ぎた8回裏に3点を失い、一死で無念の降板となったが、この日は「最速145キロ」をマークしながら6回でマウンドを去ったプロ注目右腕の中村文英(3年)に「最速119キロ」2年生左腕が投げ勝った。その事実は変わらない。降板時に観客から期せずして巻き起こった大拍手が、彼に対する何よりの評価である。
(文=寺下友徳)