試合レポート

樟南vs鹿児島実

2013.07.24

樟南、「らしさ」で勝る!

 95回目の鹿児島チャンピオンを決めるのにふさわしい決勝戦だった。樟南樟南らしく、鹿実は鹿実らしく、2時間56分の死闘を戦い抜き、最後は粘り強く投げ抜いたバッテリーと、意表を突いた仕掛けで決勝点を奪った樟南に4年ぶり18回目の夏の甲子園の切符を手にした。

 樟南と鹿実。鹿児島の高校球界を長年けん引する2強が夏の決勝で激突するのは3年ぶり10回目だ。過去の対戦成績は樟南の5勝4敗。この1年間だけをみると昨夏の鹿児島市大会、今春の県大会、5月のNHK旗と3度対戦し、いずれも鹿実が接戦をものにしている。この1年間、県大会王者が全て変わり、混戦が予想された大会の中で、樟南はバッテリーを中心とした堅守と勝負強さ、鹿実は強力打線と、互いの持ち味を発揮して力強く勝ち上がってきた。両校の全校応援に加え、「伝統の一戦」を見届けようと大勢のファンや、両校に甲子園の夢を託して敗れた球児らが駆けつけ、猛暑の暑さがさらにヒートアップした。

 試合は初回から大きなヤマ場があった。鹿実のリードオフマン・松下航平(3年)の打球は平凡な二ゴロと思われたが島田貴仁(3年)がボールを握り損ね、送球できない。記録は内野安打。バントで送って一死二塁。立ち上がりから得点圏に走者を置いて、福永泰志(3年)、横田慎太郎(3年)の鹿実の誇る中軸コンビを迎えることになった。

 山下敦大(3年)―緒方壮助(3年)の樟南バッテリーの巧さが勝るか、福永、横田の打力が勝るのか、この試合の大きな見どころのひとつだ。カメラのシャッターを切る手を止めてでも、じっくり見届けたい衝動に駆られるシーンだった。
 福永は追い込まれながら、外角のボールに泳がされ体勢を崩しながらもレフト前ヒット。打撃好調ぶりがうかがえる一打だった。横田は変化球でファールを打たせてフルカウントまで粘って、当たりは詰まりながらも二遊間を抜けそうな打球だったが、島田がダイビングキャッチで好捕。グラブトスしたボールを遊撃手・今田典志(3年)が右手でキャッチし、二死とした。

後続も打ち取り、初回は無得点だったが、このイニングだけで約15分の時間を擁している。バッテリーVS主砲の直接対決は「痛み分け」といったところか。


3回の直接対決「第2ラウンド」は鹿実の主砲が底力を見せる。簡単に二死となったが、福永が初球の外角直球をレフト前に弾き返す。横田は初球の甘く入ったスライダーを迷わず振り抜いた。大きな弧を描いてドライブした打球が左翼手の頭上を越え、先制のタイムリー三塁打。続く、5番・大迫光之介(3年)にもタイムリーが生まれ、鹿実が先手を取った。

その裏の樟南は一死から横田を揺さぶり、満塁のチャンスを作る。4番・緒方を迎えたところで宮下正一監督は横田から福永へスイッチ。押し出しの1点は与えたものの、後続を絶ち追加点を与えなかった。樟南は2、4回と先頭打者を出しながら、持ち味である送りバントが決まらず、5回までは攻撃のリズムがつかめていなかった。

先手を取られ、攻撃がうまくかみ合わない中で粘りをみせたのがバッテリーだ。5回一死二塁で迎えた「第3ラウンド」では福永を一ゴロに仕留め、横田は内角直球で追い込み、準決勝・鹿児島情報戦から威力を発揮したスクリューで三振に打ち取る。前半5回は鹿実が1点リードはしているも、互いの持ち味を出させないプレーが随所に出て、拮抗した展開で、後半はまだまだ波乱がありそうな予感は十分にあった。

カラカラに乾いたグラウンドに水をまき、いつもより長めに約10分間のグラウンド整備があって仕切り直しとなった6回に試合が動いた。

表の攻撃を3人で終わらせた樟南はその裏、簡単に二死となって山之口和也監督は代打・前村航平(3年)を送る。前村の打球はファーストベースに当たって打球の方向が変わるラッキーなライト前ヒット。更には「公式戦では初めて」という盗塁を決める。

決して足は速くない代打の切り札の果敢なプレーが、樟南打線の重苦しい雰囲気を振り払い、続く島田から3連打を浴びせて2点を挙げ、後半の立ち上がりで試合をひっくり返した。


鹿実も直後の7回表に1番・松下航平(3年)がセンター前タイムリーを放って同点に追いつく。これ以降は両者の堅い守備が攻撃の芽を摘んでいく。

再び同点とされたあと、「直接対決」第4ラウンドは、福永に死球、横田に四球で敬遠気味に勝負を避け、5番・大迫を遊ゴロに打ち取って勝ち越し点は与えない。その裏樟南の攻撃は一死二三塁とし、6番・北郷健太郎(3年)がスクイズを仕掛けるも、福永が見事なフィールディングとグラブトスで勝ち越しホームを踏ませなかった。8回には鹿実が一死一塁から送りバントを仕掛けたが、山下がお返しとばかり好フィールディングで二塁を刺した。互いに負けられない意地がぶつかり合いがっぷり四つに組んだ状態で、9回を迎えた。

9回の表、「直接対決」第5ラウンドで完勝し、3人で終わらせたことが、その裏の勝ち越し劇の布石といっていい。福永を変化球でセンターフライ、横田には3打席目を直球で追い込んだのとは逆配球の、スクリューを中心とした変化球でカウントを稼ぎ、最後はスライダーで一ゴロに打ち取った。狙い球を絞らせず、打たせて取る投球の真骨頂だった。
「ピッチャーが頑張っているんだから、山下のために点を取ってやれ!」と攻撃の前にベンチ前で円陣を組んで、山之口監督はそう檄を飛ばした。先頭の3番・今田がそれに応え、センター前ヒットで出塁する。「2球目までに走るから」。今田は打席に入る前に緒方にそう耳打ちした。言葉通り、今田が二盗を決める。緒方は四球を選び、代打・城須皇哉(3年)が送りバントを決め、一死二三塁とサヨナラ劇の舞台装置は整った。6番・北郷は三ゴロに倒れたが、「自分で決めるつもりだった」山下が流し打った打球は三塁手の手前でイレギュラー。カバーに入った遊撃手・松下が懸命の一塁送球を試みるもセーフ、今田が4年ぶりの甲子園を決定づけるホームを踏んだ。

準決勝では12犠打を決めるなど、徹底した「バント野球」のイメージがあった分、今田の盗塁が相手バッテリーを揺さぶるのに効果的だった。何より9回粘り強く投げ抜いた山下のために何とか点を取ってやりたい気持ちでチームが一つになり、最後の決定的な場面が山下に回ってきた。1年生大会を制して以降、負け続けていたチームだったが、5月のNHK旗準優勝で手ごたえをつかみ、最後の夏にこれまでの悔しさを爆発させて勝ち取った4年ぶりの甲子園だった。

(文=政 純一郎)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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