鹿児島実vs鹿屋工
当たり前のことが当たり前にできること・鹿屋工
鹿屋工は今春、NHK旗に続く3大会連続4強入りを果たし、強豪・鹿児島実に挑んだ。
先発はエース村山隆磨(3年)ではなく、2年生左腕の橋口真矢。吉田公一監督は、組み合わせ抽選で、勝ち上がったらベスト4で鹿実と当たると分かった頃から「準決勝は橋口で行く」構想が頭にあった。167センチ、54キロの小柄な軟投派左腕だが、5月のNHK旗準々決勝で鹿児島情報を完封したことで自信をつけ、左打者の多い鹿実に対して勝負できると考えていた。
橋口はその期待に応え、初回1点は失ったものの、緩い変化球と低めの厳しいコースを突く直球で鹿実打線の狙いを外し、守りのリズムを作った。
打線は4回、準々決勝の活躍で8番から6番に打順が上がった瀬戸口大和(3年)のレフト前タイムリーで同点に追いつく。5回は二死一二塁となったところで、鹿実は先発のエース横田慎太郎(3年)から福永泰志(3年)にスイッチ。「ここで打たないと後が苦しくなる」と集中力を高めた3番・小能侑也(3年)が低めの変化球を詰まりながらもライト前に運び、勝ち越した。5番・川原俊樹(3年)にもタイムリーが出て、2点リードを奪った。
大きなターニングポイントが7回だった。5、6回と3人ずつで切り抜けた橋口が先頭打者に四球を与え、ヒット、暴投、内野安打で無死満塁と最大のピンチを背負う。
迎えるは福永、横田の鹿実の中軸。福永に犠牲フライを打たれて1点差とされるも横田をライトフライに打ち取って二死。5番・大迫光之介(3年)は平凡な遊ゴロ。遊撃手・奥隆輔主将(3年)は二塁フォースアウトを狙おうと二塁ベースに身体を向けたが、一走はスタートを切っており二塁は間に合わない。慌てて一塁に転送しようとしたがこちらも間に合わず、記録は内野安打。同点に追いつかれた。
「カウントがフルカウントだったことが頭に入っていなかった。歓声がすごくて自分を見失っていた」と奥主将は悔しがる。吉田監督は「7、8、9回、当たり前のことが当たり前にできないと苦しくなると言い続けていたのだが…夏はあと一つのアウトをとることが本当に難しい」と実感できた。この試合をラジオ解説していた元樟南監督の枦山智博氏は「記録に現れないミスが出る。これが準決勝という舞台の目に見えないプレッシャーなんでしょうね」と語っていた。
8回裏には福永のバックスクリーン2ランを皮切りに、5連打を浴び、瞬く間に点差が開いた。9回は自分の頭の上を越させる屈辱を味わった小能が意地のタイムリーを放って食らいついた。「あきらめない気持ちでやり返したことが、後輩たちへのメッセージになる」と吉田監督は言う。3度挑んで越えられなかった決勝への壁。大きな「宿題」を胸に秘め、大隅勢最後の砦は夏の鴨池を後にした。
(文=政 純一郎)