鹿屋工vs古仁屋
歴史を変えた夏・古仁屋
初回を無失点でしのいだ古仁屋だったが、2回に二死から連打を浴びて2点を先制された。3回には7番・川原俊樹(3年)に3ランを浴びた。打線は鹿屋工の軟投派左腕・橋口真矢(2年)を打ちあぐね、散発3安打、三塁を踏めなかった。何とかコールドを阻止したかったが、6回に集中打を浴び、10点差がついてコールド試合になった。
「下がるな! 前に出ろ!」と古仁屋・前和樹監督は何度も声を張った。シード鹿屋工の打線は強力だ。何度も何度も外野の頭や間を抜かれ、知らず知らずのうちに守備位置が下がっていた。「気持ちで引かない」戦いをするために前監督は「前に出ろ」と言い続けた。
「1つ1つのプレーを確実に」「ミスをしても全員でカバー」「全力疾走」…これまでの3試合と同様、やるべきことをやり切ろうとする姿勢はみえたが、「相手が強力だった」とナインは口をそろえる。龍元圭介主将(3年)は「5回で終わらなかった」ところで意地はみせられたが「9回までできなかった」ことに悔し涙があふれた。
「センターラインを中心によく鍛えられたチーム。決して油断はできないと思っていた」と鹿屋工の吉田公一監督は言う。
何度か間を抜けそうな打球もあったが、ことごとくさばいて古仁屋に反撃の機会を与えなかった。裏を返せば、シード校も本気になるほどの勢いが古仁屋にあったということだ。「まだこのチームにベスト8は早いよと教えてくれた。その本気がありがたかった」と前監督は言う。
「歴史を変える」(永井弘夢)がこの夏のチームの合言葉だった。
創部以来初の県大会3勝を挙げ、ベスト16入りして全校応援を成し遂げたことは「何よりの宝物」(龍元主将)だ。前監督にとっては、前任の岩川から始まって8年目の監督生活の中で「土日の休みもなく厳しい毎日だったけれど、大会前に一番やり切った手ごたえを持って臨めた」夏に教え子たちが日に日にたくましくなっていく姿を実感できた。5回のグラウンド整備の間に、全校生徒が大声で校歌を歌うのが聞こえた。普段は小声でしか歌えない生徒たちを野球部の頑張りが変えた。
3年生7人が抜ければ残りは2年生4人。「また来年、単独チームでここに戻って来よう」と前監督が言葉に力を込めた。「9人そろえる」野球の基本からまた新しい歴史を紡ぐ。
(文=政 純一郎)