試合レポート

桐光学園vs相洋

2013.07.14

神奈川県の険しさを物語る 桐光学園の初陣

 注目度№.1左腕・松井 裕樹が登場だ。春季大会の活躍により各メディアが桐光学園の練習試合に追いかけるほど松井の人気は沸騰した。本日の[stadium]保土ヶ谷・神奈川新聞スタジアム[/stadium]の内野席はほぼ満員。1回戦としては異例の客の入りである。

 注目の立ち上がり。1番関田 風太(3年)は持ち味の速球で見逃し三振を奪ったときは良い出だしを切ったと思った。だが2番久保 一樹(2年)は左飛、3番本夛 陸(3年)に左前安打を放ち、4番平野 暖周(3年)はショートゴロ。無失点で切り抜けたが、本調子の松井ではないと思った。

 松井は7月に行われた浦和学院との練習試合で18奪三振1安打完封を成し遂げた時は、ほぼ前に飛ばさせない投球内容であった。今日の松井を見ると簡単に前へ飛ばされている。もちろん相洋が打倒・松井を掲げて猛練習に取り組んでしっかりと喰らいついていっているが、本人としては手応えがあまりない、立ち上がりではないだろうか。

 1回裏、桐光学園は1番大嶋 優太(3年)が左前安打で出塁、2番武 拓人(2年)が犠打で一死二塁。3番水海 翔太(3年)の三ゴロで二死二塁となって4番山田 将士(2年)。山田は春季関東大会で中堅122メートルの[stadium]宇都宮清原球場[/stadium]でバックスクリーンに打ち込み、桐光学園の中でもトップクラスの長打力をもった男だ。その山田はレフトの頭を超える二塁打を放ち、1点を先制する。

 さらに3回裏、2番武が四球で出塁、3番水海が甘く入った直球を捉え、左中間を破る長打に。武は俊足を飛ばして、三塁を回って生還。3回まで2点を入れる。本来の松井ならば十分な援護点だろう。だが今日の松井は調子が優れなかった。2回は三振0、3回には8番倉本 鉄平(2年)に左中間を破る二塁打を浴びる。二死二塁で久保を縦スライダーで空振り三振を奪ってピンチを切り抜けたが、下位打線に長打を打たれるのは松井にしては珍しい。4回表は三者凡退。6球で4回表を終え、極力球数を少なく終えたのはよかったイニングだろう。

 5回表、6番高部 義啓(3年)は直球を右前安打、7番上田 有純(3年)は犠打に成功し、一死二塁、8番倉本は四球で一死一、二塁となって、9番栗田 享祐(3年)の初球でバッテリーミス。一死二、三塁となって栗田が左前安打を放ち、二者生還。相洋がついに5回に追いつく。相洋スタンドは大盛り上がり。相洋の先発・平野も立ち上がりに比べて制球がまとまり出した。右スリークォーターから投げ込む直球の球速は130キロ~135キロほどだが、スライダー、カーブ、チェンジアップを投げ分け、桐光学園打線に対し、臆せずインコースを投げ込み、5回裏は無失点。1回裏に先制打を放った山田を三振に打ち取り、流れ自体は相洋にあった。


 6回表、松井はここからエンジンを入れ始める。2番久保を直球で見逃し三振、3番本夛も直球で見逃し三振、そして4番平野には初めてチェンジアップで空振り三振に奪う。三者連続空振り三振に打ち取る。ここで相洋が松井から打ち崩していたら一気に流れを傾くところだったが、ギアを入れ替えて簡単には流れを明け渡さない松井の投球センスは素晴らしい。ここが勝てる投手の投球術だろう。序盤はストレート中心だったが、この回から右打者にチェンジアップを使い始めた。このチェンジアップは大きく落ち、縦スライダーだけに頼らない投球ができている。

 だが、気になったのはマウンド上で松井が苦しい表情をしながら投げていたことであった。連日の猛暑。今日も午前中でも30度を越えていそうな猛暑で、投手にとっては苦しいマウンドだったに違いない。

 7回表、二死から上田に四球を与え、上田に盗塁を許す。松井は初回ほどランナーを気にする余裕がなかったように見えた。クイックのタイムも1.70秒前後と遅い。俊足の走者ならば簡単に走れるタイム。もし、走られてランナー二塁になっても割り切って打者を抑えればいい。松井は8番倉部を2ストライクと追い込んでチェンジアップで空振り三振を奪ってピンチを切り抜ける。

 そして7回裏、桐光学園は9番竹中 俊貴(2年)が四球で出塁、1番大嶋も四球で出塁、2番武は犠打を試みるが、打ち上げて平野がダイビングキャッチ。まさに執念のキャッチだ。3番水海は四球で、一死満塁。4番山田は死球。押し出し死球で勝ち越しに成功。ここで投手交代。センターの守備についていた左腕の本夛を投入。本夛は松井の背中に当たる死球。ボールが松井の体にぶつかった瞬間。悲鳴に近い騒ぎが起こった。どれほど松井が神奈川の高校野球ファンに愛されているかがわかる瞬間だった。松井の押し出し死球で4対2とする。


 そして9回表、4番平野が直球を打って遊撃内野安打。5番奥津は四球で無死一、二塁のチャンス。6番高部は投ゴロで一死二、三塁。7番上田は四球で一死満塁。いよいよ追い詰められた松井。2回に二塁打を放っている倉部。倉部を追い込んで縦スライダーで空振り三振! そして9番栗田が一邪飛に打ち取りゲームセット。松井は安堵の表情で整列に加わった。この表情が試合中、どれだけ苦しんでいたかを物語っていた。

 大舞台に強い松井といえども、初戦は非常に苦しい試合となった。1年前は、追う立場だった。つまり挑戦者として、飛ぶ鳥を落とす勢いで勝ち進んでいった。だが今年は、勝って当たり前、ベストパフォーマンスを見せて当たり前。その重圧の中で、勝ち抜く大変さを桐光学園ナイン全体が感じているのではないだろうか。

 最初は硬さが見られた松井をしっかりと支えたのは1年生捕手の田中 幸城だ。9回一死満塁の場面で、縦に鋭くスライダーを投げられたのは、田中の捕球技術を信頼していた証拠であろう。後逸のリスクがありながらも縦スライダーを選択した桐光学園バッテリーの勇気と田中の捕球技術には恐れ入った。

 ここまで苦しめた相洋の粘りは見事であった。打倒・桐光学園を誓うライバル校を勇気づける試合内容でもあった。やはり松井という大エースを擁しても神奈川は頂点を極めるに序盤から険しい。

(文:河嶋 宗一)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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