試合レポート

済々黌vs常総学院

2013.03.26

試合中の一つのプレー・瞬間のジャッジで大きく結果が変わってくるのが野球である。
今大会、松倉雄太が試合を決定づける「勝負の瞬間」を検証する。

駆け引きの妙

 済々黌のエース左腕・大竹耕太郎が、9安打を浴びながらも常総学院打線を完封。昨夏の甲子園経験校同士の対戦を制し、春・55年ぶりの甲子園に校歌を響かせた。

 済々黌が挙げた得点は4回表のわずかに2。
 このイニングは先頭の1番中川洸志(3年)がヒットを放つ。だが常総学院のエース・飯田晴海(3年)は、2番川原諒平(3年)への初球を投げる前に、中川を牽制球で刺した。
 それでも川原がライトへヒットを放ち、3番大竹がセンターオーバーの先制三塁打を放った。さらに4番安藤太一(3年)が打席の時に、飯田は新チームの公式戦で初めてとなる暴投をしてしまう。大竹が生還して、2点目が済々黌に入った。
 結果的に唯一の得点となった4回表の攻防。決勝点とゲームの後半に続くポイントは、主将でもある中川の出塁と牽制死にあった。

 3回までパーフェクトに抑えられていた済々黌にとって、中川のヒットは初めて飯田に走者を意識させるきっかけとなった。そして一巡目は全ての打者が飯田に対して3球以上を投げさせていたのに対し、二巡目の中川から数人はファーストストライクから積極的に打っていく作戦に変えてきていた。
「配球が内角攻めということに最初の打席で気づいたので、2打席目は思い切って開いてインコースを狙うと意識しました」と初安打を放った中川は話す。

 ただし中川はその後に牽制死。その後も飯田とキャッチャー・内田靖人(3年)の常総学院バッテリーは、走者が出るたびに牽制球やピッチドアウトを多く混ぜるようになった。

 だが、バッテリーの思惑が少しだけずれる。その心境を話してくれた内田。
 「飯田の牽制球が多いのはいつも通りです。機動力があるチームこそ多くなると思います。飯田自身の判断と自分のサインとは半分ずつくらいですね。でも(今日は)相手が走ってくることが意外と少なかった」。

 済々黌サイドの思惑を明かしてくれたのが池田満頼監督。
 「(飯田投手の)牽制が多いというより、すごく早いなと感じました。それでリードを小さめするようにしようと話しました」

 後の打者が打って点を取ったことで、この攻防が勝負の瞬間(とき)となった。


 さて、9安打を浴びた大竹はいつものようにピンチを迎えてから真骨頂を発揮した。
 「ランナーを出した後が大竹の持ち味。しっかり抑えられて良かった。欲を言えばランナーを出さない投球をしたかったですが」とキャッチャーの安藤は振り返る。

 そして昨秋にファーストからキャッチャーに転向した安藤の成長こそが、大竹の持ち味がさらに生きる要素ともなっている。
 「安藤は最初キャッチングも下手で、後ろにもよく逸らしていた。今日は一つありましたが、良く止めていた。8回にあの場面でワンバウンドの球を要求して三振をとれるのも絶対に止めるという自信があるからでしょう。彼の成長を感じます」と目を細める指揮官。

 8回のあの場面へと続くのが一死から連打で走者を二人背負った後のこと。
 一死一、二塁で3番髙島翔太(3年)、4番内田と続く常総学院。髙島が打席に入る前、安藤はマウンドの大竹の元へと向かった。
 「1アウトだから思いきって一つずつアウトを取ろうと話しました。それが一番シンプルですし、後はお互いが(どうするべきか)わかっている」と安藤。打席の髙島は、大竹の初球にセーフティバントを仕掛けてきた。
 安藤は、「昨日のミーティングで自分はあると言っていましたが、内野陣はちょっと隙を突かれたかもしれませんが」と話したが、ピッチャーの大竹が冷静に処理をして、一塁で一つのアウトを取った。

 二死二、三塁となって、次はここまで2安打と大竹に合っていた4番の内田。バッテリーは一塁が空いていたこともあり、最悪死球になっても構わないという覚悟で内角を突いた。2ボール2ストライクとなって、「三振を狙う」と安藤が決意した球が低めへのチェンジアップ。池田監督が話していたあの場面である。

 指揮官が成長を感じる安藤が胸を張って話す。
 「ワンバウンドは一番練習をしてきたボール。内田選手は2安打を放っていて自信を持っていると思った、堂々と振ってくるという頭があったので、そういう相手の心も利用して振らせようと意識しました」。

 9回表にまたしても訪れた一死一、二塁のピンチ。ここでもタイムを取って『まず一つのアウトを』と確認しあった済々黌野手陣。打席の8番和田力也(3年)を、「うまくいきすぎた」(安藤)というダブルプレーでゲームは終わった。

 4安打2点で勝利した済々黌と、9安打無得点で敗れた常総学院。勝ち負けはともかくとして、双方に駆け引きの妙があったゲームと言えるだろう。

(文=松倉雄太)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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