試合レポート

上田西vs星稜

2012.10.16

上田西vs星稜 | 高校野球ドットコム

上田西 スタンドに向かってガッツポーズ!

全員野球で掴み取った北信越ベスト4

9回裏4対3、場面は二死二、三塁。守る上田西にとっては修羅場だった。
打席は星稜の1番丸山雅史(2年)。この日は3度四球で出塁し、内野安打も1本放っている。マスクを被る主将の大塚雅也(2年)は、マウンドの柳澤和希(2年)に声をかけた。

「打たれたら仕方がない。逃げずに思い切って腕を振ってこい」という気持ちでしたと大塚。

2ボール1ストライクからの4球目。思い切って腕を振って投げた柳澤の球を、丸山が打ち返した。打球はセンターへの痛烈なライナー。これをセンターの宮澤義也(2年)が見事にキャッチ。その瞬間、大きな雄叫びをあげた柳澤は、大塚と抱き合った。

「選手は本当によくがんばった」と讃えた原公彦監督。8月の新チーム結成時から一つの目標としてきた北信越ベスト4を果たした選手は、3日連戦の疲れも忘れて、最高の笑顔でスタンドに挨拶した。

引き分け再試合があり、3日連続での試合となった上田西
モチベーションは高く持続できていたが、疲労感はさすがに否めない。特に、全てのゲームで先発したエースの浦野峻汰(2年)は限界に近かった。

立ち上がりにストライクを取るのに苦しみ、二者連続で四球を与えてしまう。犠打で二、三塁と進められ、星稜の4番鹿屋陸(2年)の犠牲フライで1点を失った。
ただ、5番谷下恵介(2年)を打ち取って最少失点で切り抜けた浦野。失点こそしたが、犠打と犠牲フライでアウトを確実に増やしたことが、最少失点に繋がる要因になった。
そして、このアウトを増やすということが、9回の修羅場にも繋がることになる。

星稜の先発・室木大(2年)の前に、1回、2回と抑えられていた打線。3回、一死から9番外谷健人(2年)が四球で出塁する。執拗に警戒をする星稜守備陣。そう、次の1番打者・武田竜樹(2年)の存在が、前後の打者にも影響を与えていた。

一死一塁で打席に立った武田は、ピッチャーの前にバント。難なく処理した室木だったが、武田の俊足が勝ち、一塁がセーフになった。
一、二塁となって2番荒井圭佑(2年)がセンター前にタイムリーを放ち、上田西は同点に追いついた。

さらに3番小崎脩造(2年)がレフト前に弾き返し、二塁走者の武田が生還し逆転。5番宮澤の犠牲フライでこのイニング3点を挙げ、ゲームをひっくり返した。

だが、「気が抜けなかった」と大塚が話す星稜の打線。その裏、4番鹿屋のタイムリーですぐに1点を返した。このイニングの途中で、上田西のマウンドは先発の浦野から、同じ左腕の花里佑亮(2年)に代わっている。
「本来ならば浦野に長いイニングを投げてもらいたいが、さすがに限界でした。3回で代えた時点で、投手全員でいくしかない」と原監督は心境を話す。

3対2となり大事な次の1点。取ったのは上田西だった。

5回、先頭打者として打席に立った武田が右中間へ二塁打を放つ。塁に出ると、様々なリードで守備陣を揺さぶる武田。一死後、3番小崎の内野安打で三塁まで進んだ。
続く4番佐藤辰徳(2年)がレフトへフライを放つ。やや浅い打球だったが、捕ったのを確認した武田は迷うことなく本塁へ向かって走り出した。結果はクロスプレーになることなく、楽々とホームイン。50メートル5秒68の俊足が、この日も炸裂した。
「どこと練習試合をしても、(相手チームから)武田が欲しいと言われます。足が速いのと、足の回転も速い」と武田の存在と武器を語る指揮官。

塁に出るのはもちろん、3回のようにネクストバッターズサークルにいるだけで相手は警戒をする。結果として、打者に対して球が甘くなる確率が高くなる。守備側にとっては、これほど恐ろしい選手はいない。


上田西vs星稜 | 高校野球ドットコム

悔しそうな表情をする星稜・鹿屋陸

5回裏、星稜は代打・山本基童(2年)のスクイズで1点を返して再び1点差となった。
星稜サイドはこの回、犠打を決めるために木村彰吾(2年)を代打で起用し、そしてスクイズのために山本を使った。早いイニングではあったが“勝負の手”を林和成監督はドンドン繰り出した。流れは少しずつ星稜に傾きはじめ、それを何とか凌ぐ上田西

7回裏、一死から二度目の打席に立った木村がヒットで出塁。続く山本が二死覚悟で送った。
打順は7番だが、途中出場の岩下大輝(2年)。ここで「何かを感じた」(原監督)という大塚が、自ら判断して敬遠の策をとった。次の打者は途中から星稜のマウンドに立っている加藤峻平(2年)。どちらで一つのアウトを取るかを考えた末に、加藤との勝負を選んだ大塚。

しかし、8番加藤はファウルで粘った後の7球目をセンター前へ弾き返す。誰もが『同点か?』と思った瞬間、打球への準備ができていたセンター・宮澤からストライクの球が返ってきた。走者の木村は本塁で憤死した。

それでも流れはまだ星稜。8回、このイニングからマウンドに立つ三番手の関晃佑(2年)から三連打で満塁とする。打席はこの日2打点の4番鹿屋。
マウンドの関は、ストライク、ファウルで先に追い込むが、その後ボールが3球続いてフルカウントになった。6球目はファウル。
次の5番以降は、途中出場している選手が並ぶ。『自分が打たなければ』という責任感が強い表情を見せる鹿屋。勝負のボルテージは最高潮に達していた。

7球目、関の投じた変化球に、鹿屋のバットは空を切った。
思わずバットを振り、天を仰いで悔しがる鹿屋。後続も倒れて、またも同点にできなかった星稜。大きな盛り上がりを見せる上田西ベンチ。グランド内の描写は極端に分かれた。

そして9回裏。四番手として柳澤がマウンドに上がる。冒頭の修羅場につながるきっかけは、セカンド・荒井圭佑(2年)のエラーだった。
一死後、四球で一、二塁となる。星稜の林監督は、二死覚悟でバントの策をとった。9番の大野淳平(2年)が決めて二、三塁。
ただアウトカウントが二死となったこと、そして何度もピンチを耐えてきていたことが、上田西バッテリーの気持ちを、「打たれたら仕方がない」と吹っ切らせた。

最後も凌いで勝利を手にした上田西。エラーをしてしまった荒井は、涙を流していた。
「荒井は最後にエラーをしたけど、彼が(同点打を)打たなければ勝てなかった。一人一人が束になって、全員で野球ができたから勝てたと思います」と話した大塚主将。

延長15回引き分けを含み、3日連続のゲーム。「特にピッチャーにはかわいそうなことをした。まずは休ませてあげたい」と原監督は疲労感のある選手を気遣ったが、かけがえのない経験をして強くなったのは間違いない。

目標としていた北信越準決勝は土曜日(20日)。相手は敦賀気比と決まった。地元に戻っての4日間は、最高のモチベーションで練習ができるだろう。
「もう一度、謙虚な気持ちを持って、準備したい」と主将は力強く語った。

               上田西 TEAM                星稜
守備位置 氏名 打順 守備位置 氏名
武田 竜樹 1番 丸山 雅史
荒井 圭佑 2番 待場 大輔
小崎 脩造 3番 北村 拓己(主将)
佐藤 辰徳 4番 鹿屋 陸
宮澤 義也 5番 谷下 恵介
浦野 峻汰 6番 深美 直人
大塚 雅也(主将) 7番 田中 吉喜
土肥 準也 8番 室木 大
外谷 健人 9番 大野 淳平

(文・写真=松倉雄太
(写真:試合シーン69~:佐藤純一)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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