高知vs高知商
球速は140キロ台連発も4回3失点の高知先発・和田恋(2年)
「物足りない」決勝戦の理由
2時間47分を戦い抜いた両校の選手たちには非礼を承知の上であえて記すが、正直「物足りない」決勝戦であった。
その理由はいくつかあげられる。まず決勝戦の常連・明徳義塾の不在。この日、大会運営に従事していた佐藤洋部長がいまだ怒りを隠せないほどの準々決勝・高知南戦における拙い敗戦は、高知南の善戦健闘を差し引いたとしても甲子園4強つかんだ3年生たちの業績を全て無にしてしまったといっても過言ではない。そして「明徳義塾」という高い壁を越えることを目標にしていた両校に、微妙なモチベーション低下を与えたことも然りである。
そのせいか決勝戦の試合内容自体も物足りなかった。右肩甲骨痛で夏の高知大会は無念のベンチ外に終わった高知商業先発の最速142キロ右腕・津村佑一朗(2年)は、本人も認める「ランナーを置いたときの投げ急ぎ」から5回に2失点。3点先制で得た主導権を互角以上としてしまい、6回からの後続投手による大量失点の遠因を招くことに。「もう1回開き直らないと勝てない」と話した正木陽監督の表情は、若干の呆れも混ざっていた。
一方の高知先発・和田恋(2年)も、センバツでもマウンドを守った坂本優太(2年)が負傷明けで連投が難しい事情を鑑みても、140キロ台のストレートが全てシュート回転。プレート一塁側を踏み続けた明徳義塾・福丈幸(3年)のようなシュート回転を活かす工夫もなく4回3失点。5回から明らかに本調子でない坂本のリリーフを仰ぐ結果に終わった。加えて先に記した高知商業投手陣の不出来。5回以降2点ずつを加えた自軍打線を島田達二監督が「たまたまです」と評したのも、半分は本音であろう。
2年ぶり18度目の秋高知県王者に就き、ダイヤモンドを一周する高知の20人
そして最大の「物足りなさ」の理由は筆者が愛媛県大会を前日に取材したから。この決勝戦における技術レベルと意識で秋季四国大会に入った場合、愛媛県1位校として高知県に乗り込む済美の最速151キロ1年生右腕・安樂智大(1年)に対抗することは難しい。それを感じ取ってしまったからだ。
もちろん、「対安樂」を考えている指導者は高知県にもいる。10月6日にスカウティング舞台を引き連れ[stadium]坊ちゃんスタジアム[/stadium]に赴き、安樂の凄みを体感した高知・島田監督は四国大会に向けた課題をこう話した。
「まだウチの実力は相手どうこうまで見えていない状態ですが、四国大会に進んだことで目標ははっきりしました。実際、スカイティングに連れて行った選手も安樂くんを見た後は見方が変わったし、決めるべきところをしかっかり決めて勝負にしたいです」。
となれば、あとは選手の意識。現在、高校通算本塁打29本。四国屈指の右アーチストである和田恋は「安樂くんが速いことは知っているが、対策は当たったときに考えたい」と話したが、安樂を意識し、倒さなければ、センバツはつかめない。しかも生半可な気持ちで打てる投手ではない。松山聖稜や今治工業に代表される愛媛県勢選手たちが必死の形相で彼に対峙しているのをみれば、それも明らかだ。
この夏、全国4強に進出した高知県の高校野球は現在、四国をリードすべき存在。それを愛媛県、いや安樂智大に譲り渡したくなけれれば、2週間後に待つ地元開催の秋季四国大会までに「物足りない」を「満足」に変える努力を見せてくれるはず。今はそう信じたい。
(文=寺下友徳)