仙台育英vs宇部鴻城
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尾崎公彦監督の横でいつも通り立ってスコアを付ける野室千尋記録員(3年)
宇部鴻城「超高校級女子マネジャー」、最後の公式戦
「超高校級」。
これは通常選手に対して使うフレーズだ。だが、今回紹介する「超高校級」は選手ではない。野室千尋(のむろ・ちひろ)さん。初の選手権出場で2勝の功績を認められ、国体初出場を果たした宇部鴻城(山口)野球部でたった1人の3年生女子マネジャーである。
甲子園ではグラウンドレベルから一段低い聖地のベンチを想定し、一年間、立ったままスコアを付け続けたことが大きな話題となった野室さん。彼女が出場を切望していた国体でも、姿勢と準備は全く普段と同じだった。
1回も座ることなく立ってスコアを付け続けたのはもちろんのこと、「前の打席で相手打者がどの方向に打っているか即答するように指導してきた」尾崎公彦監督の横で変化球、ストレートやけん制がどこで入ったなども詳細に記入。時には首を振ってグラウンド全体と選手たちの行動も凝視しつつ、「女の子1人だからこそ、自分に厳しくないといけないし、自分が試合に役立つために何をするかを考えなくてはいけない」を体現し続けたのである。
試合は4回裏に4番・金丸将(3年)の適時打で先制するなど前半は宇部鴻城が主導権を握る展開に。一方、「ここで変えなきゃ、そのままいくよ」と佐々木潤一朗監督から指摘を受けた仙台育英は、9回表・3番の星隼人(3年)が豪快に左翼席に引っ張り込んだ3ランなどで終盤3イニングで5点。最後は宇部鴻城も9回二死二塁から笹永弥則(3年)の安打、7番・西野孝太郎(3年・主将)の二塁打で2点を返すも及ばずといった、国体によく見られる出入りの激しいものに。それだけに「3年生が夏休みで休んでいる間も変わらず練習に出てきていた」(尾崎監督)彼女の安定感は一層際立っていた。
そして試合後のインタビューでは「国体に連れてきてもらって選手には感謝しています。3年間感謝の気持ちでいっぱいです。卒業後も何らかの形でサポートしたい」と、はきはきと対応し、「ありがとうございました」と丁寧に報道陣に挨拶し、運営の手伝いを行っている女子マネジャーの相談を受け、「あと2年あるから頑張ってね」と励ましの声を掛けて会場を後にした野室さん。そんな一連の行動も「超高校級女子マネジャー」の称号にふさわしい、凛たる振る舞いであった。
(文=寺下友徳)