試合レポート

東海大甲府vs作新学院

2012.08.22

揺れた小針采配

 あたかも、メディアが結論付けているようだった。

試合終了後の作新学院・小針崇宏監督にはこんな質問が飛んでいた。
「きょうはいつものと何かが違いましたね?」
3回戦の前に発覚した部員による強盗事件の影響と敗因を結び付けたいかのようだった。
影響が全くないとは言い切れないが、そんな試合ではなかった。

 揺れたのは選手たちのメンタリティーではなく、小針采配ではなかったか。
特に気になったのが、4回表、同点の場面。無死・1、2塁からの手堅い攻めだった。
3番・篠原優太、4番・高山良介で作った好機に、小針監督は山下勇斗に送りバントを命じた。

篠原が出ても高山が強攻しているように、小針監督はあまりバントを多用しないはずだが、なぜか、この場面では送りバントを策に選んだのである。
「次の1点が大事だと思ったので、1点を取ろうと。手堅い作戦にしました。」(小針監督)
気持ちは分からないまでもないが、その策に、作新学院らしさを感じなかった。

 送りバントは有効か―――。

高校野球を見ているといつも思うことだが、送りバントを多用することにどこまでの有効性があるのだろうか。せっかく勢いに乗ったところで送りバントを選択し、アウトを相手に一つ与えることに、先は見えるのか、と。

1点を取れる事はあっても、大量得点にはつながっていかない。目先の作戦に思えて仕方がないのだ。

とはいえ、バントが有効かどうかの議論に答えはない。なぜなら、送りバントをして1点でも入れば、その作戦は正しいと結論付けられるからだ。

 この場面がまさにそうだった。
山下の犠打は成功し、続く吉田紘大の左翼前適時打で2者が生還。同点に追いついた。
小針采配は的中していた事になる。
しかし、甲子園限定とはいえ、3季連続で小針監督の積極的な采配を見てきたものとしては、納得がいかないものがあった。勢いを感じなかったのだ。


 振り返ってみると、今大会、積極的であるはずのチームが策を変え、敗れてきている。

例えば、3回戦光星学院に敗れた神村学園がそうだった。
5点を追う5回裏、無死・1、2塁で6番・永尾 稜に犠打をさせている。
1死・2、3塁から相手の野選により、結果的に1点をとることができたが、県大会では6試合で5犠打(犠飛1)しかなかったチームが送りバントの末の1得点は、チームを勢いに乗せなかった。試合は2点差まで詰め寄ったものの、7回以降に突き放されて、神村学園は大会を去った。

ベスト8の進出した天理もそうだ。

準々決勝
大阪桐蔭戦。
1点ビハインドで迎えた2回裏、相手の二つの失策で無死・1、2塁から6番・吉村昂祐にバントを命じた。これが、二塁走者の飛び出しを誘発してしまい、大阪桐蔭の捕手・森友哉の強肩の餌食になった。3回裏にも、無死・1、2塁の好機から1番・早田 宏規が送りバントを失敗した。

天理は県大会で犠打が5試合で8個(犠打飛が2)しかない。さらには、前年の秋に大阪桐蔭を近畿大会準々決勝で破った時、犠打は0だった。ノーガードの打ち合いを演じ、打ち勝っていたはずだった。

神村学園も、天理も、積極的な攻撃が売りだったにもかかわらず、策が慎重になり、イマイチ勢いに乗れなかった。
作新学院も積極的なチームだったはずだが、同じように消極的な攻めたことが後々、尾を引いた。


 2-2の同点の5回裏、東海大甲府は1死・1塁から4番・石井信次郎の打席でエンドランを掛けている。見事に成功し、この回、2点を勝ち越した。東海大甲府・村中監督はこのエンドランの効果をこう説明している。
「ヒットエンドランは打撃で悩んでいる選手に積極的に打たせる意味も含めて出す時があります。今日の試合では石井や秋谷がそうでした」

石井はこの後、2安打。最終打席では本塁打を放っている。
回の浅いうちのバットを振りに行かせたことで先につながったのだ。
「うちの選手は大会に入るまでに振ってきましたからね。積極的にいけば打てるはずなんです」と村中監督は胸を張っている。

試合は、終盤に着実に加点した東海大甲府が8-4で作新学院を下した。
作新学院は後半に粘ったが、最後まで劣勢を跳ね返すことはできなかった。

4回表の場面、果たして、山下は送りバントで良かったのかどうか。

得点になっているから間違った策ではない。
しかし、そうではないのだ。

小針采配の揺れが、この試合のキーポイントだったと思う。

(文=氏原英明)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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