桐光学園vs桐蔭学園
2年連続の“桐桐対決”
昨年は準決勝で実現した“桐桐対決”。今年は、甲子園をかけた決勝で実現したのだが、近年躍進著しい桐光学園が、今年も制して5年ぶり4回目の甲子園出場を決めた。
桐蔭学園が初めて甲子園に姿を現したのは1971(昭和46)年の夏だった。初戦で東邦を下すと、そのまま勝ち上がって初出場初優勝の快挙を果たしている。以来、高校野球の強豪校として、全国的に認知されるとともに、やがて週刊誌「サンデー毎日」などから火がついて、高校大学進学ランキング等が発表されるようになって、国公立大や首都圏の有力私学の合格者数で、常時上位を確保していくようになった。まさに、学校としては、スポーツと勉学の両面で、全国トップレベルにあるということを強く印象付けた。
桐蔭学園も、野球だけではなくサッカー部やのラグビー部、柔道部なども全国レベルの部活動として注目されている。
そんな桐蔭学園の“蔭”を追いかけながら、同じ神奈川県で文武に追随してきたのが桐光学園だった。そして、いつしか、大学合格実績では桐蔭学園に肩を並べるどころか、有力私学の合格実績では桐蔭学園を越えていた。気がついたら野球でも、2000年以降の甲子園出場実績ということでいえば、桐蔭学園が03年春だけというのに対して、桐光学園は01年春に悲願の甲子園初出場を果たして以来、02年、05年、07年と夏も三度甲子園出場を果たすなど、リードしている。
そして、直接対決でも昨夏のように桐光学園が勝利している。そして迎えた今年の決勝。リベンジしたい桐蔭学園と、返り討ちを果たしてそのまま甲子園出場を果たしたい桐光学園の対決は当事者だけではなく、OBや関係者含めて、お互いが意識せざるを得ない状況となった。
満員となった[stadium]横浜スタジアム[/stadium]。先制したのは桐蔭学園だった。2回、四球の走者をバントで進め、八番の投手齊藤大将自らがサードの股間を抜くヒットで返す。さらに続く山野辺翔が左中間三塁打してこの回2点が入った。
反撃したい桐光学園は4回、2本のバント安打などで一死満塁として、一番鈴木拓夢のセンター前ヒットでまず1点を返し、なおも二死満塁から、もっとも安定している三番水海将太が中前にはじき返して2者を迎え入れて逆転した。桐蔭学園もすぐに5回、菊地新大の二塁打と五番森川大樹のタイムリーで追いついたが、桐光学園もその裏、桐蔭学園の二番手檀上竜爾を攻めて、九番中野速人のライト前タイムリーで再びリードを奪う。
こうして、5回までで2時間近くを費やすという重くて長い試合は、点の取り合いという展開で、予断を許さないものになっていった。
次の1点をどちらがどういう形で奪うのかということが、試合の流れという点からも大きく左右すると思われた。それが7回、桐光学園に入る。この回の桐光学園は四死球と飛球落球と無安打で満塁とすると、失策の後の初球、四番植草祐太がスクイズを決めた。なおも満塁という場面では、桐蔭学園の三人目、横塚博亮が踏ん張った。8回には桐蔭学園も、すぐに1点を返して、まだまだ展開はわからないぞという雰囲気だった。
しかし8回、ついに決着がつく。この回途中から、桐蔭学園は四人目の辻中知樹がマウンドに立ったが、四球で苦しくなり、満塁から宇川一光が2点タイムリー、そして、決定的となったのが代打で出てそのまま五番に入っていた山口翔大が右中間を破り、そのまま自分自身もホームへ帰ってくるというランニング本塁打を放ってこの回6点が入った。山口は、2打席三振だったがここで意地を示した。
終盤の大量リードで楽になった桐光学園の2年生エース松井裕樹は疲労もあっただろうが、9回も2三振を奪い、この試合では15三振を奪う力投だった。力んで投げるタイプなので、投げ終わった後、体が三塁方向に倒れるという癖もあるが、ストレートは力があるし、タテの鋭いカーブで空振りをとれるのが大きい。制球に課題もあり、球数が増えていくのは否めないが宇川捕手もよくリードしていた。松井本人も、「ここだけを目指してやってきましたから、疲れもありましたけれど、この状況を楽しんで、宇川さんのミットをめがけて思い切り投げました」と、その気持ちを語っていた。
大試合を制した野呂雅之監督は、安堵の表情を浮かべながら、「2年連続の決勝と言っても、去年のチームと今年のチームは違いますから…。この大会は松井が頑張ってきてくれて、ここまで来られたのですけれども、今日くらいは打線が点をとってやってと思っていたのですが、終盤でしたがよく点をとってくれました。試合の流れとしては、7回のスクイズが大きかったと思います」と、振り返り、「甲子園では、この大会に参加した神奈川の選手のすべての思いを背負って戦いたいと思います。5年ぶりですから、また新鮮な気持ちで挑めます」と、甲子園への思いも語っていた。
過去3度の夏の甲子園出場は、いずれも横浜が敗れたスキを突いて勝ち上がったということもあって、「スルー横浜の桐光学園」などともいわれていたが、今年は準々決勝で自力で横浜も倒しての進出である。
エース松井や三番水海、四番植草や5回に勝ち越しタイムーを放った中野が2年生、1年生も二人がスタメンに名を連ねるという若いチーム。そんなチームをまとめてきた、田中頼人主将は、出場機会はあまりなかったがこの日は5番で先発出場した。自分自身は安打は打てなかったが、「ここまで来たら、楽しんでやるだけだと思っていました。思い切りプレーしようと声をかけて、みんな声も出ていたし、笑顔で楽しめたと思います。下級生が頑張ってくれていましたが、最後は3年生が打つことが出来ていい試合でした」と、8回の山口のランニング本塁打や宇川のタイムリー打を喜んだ。
2年連続で桐桐対決に破れた桐蔭学園の土屋恵三郎監督は、「選手はみんな、一生懸命にやりました。勝たせてあげられなくて、ゴメンナという気持ちです。最後まであきらめずに、食いついていってくれました」と、選手たちをねぎらっていた。
(文=手束仁)