伊万里農林vs佐賀西
熱戦の末に
試合を決定づける一発だった。
0対1と1点ビハインドの5回、一死二塁。先発の船津卓見(3年)の後をうけエースの重田貢二(3年)がマウンドに立った。
その初球。伊万里農林の3番•松岡怜(3年)にフルスイング捉えられた打球は、心地よい金属音を響かせてライトスタンドに吸い込まれていった。
「早くあの回を終わりたいと簡単にストライクを取りにいってしまった。自分の精神的な甘さが出た。3年間やってきて成長できていない」と悔しさに顔を歪めた重田。
春先に痛めた右肩の影響から本格的に投げ始めたのは、6月に入ってから。
この佐賀大会では船津との継投で勝ち上がってきた。
「このタイミングがベストだった。あれよりちょっとでも遅れれば後悔する」と広重監督も絶対の信頼を置くエースの投入。そこでまさかの本塁打を喫した。
伊万里農林•岡本のスローカーブで緩急をつけた投球に押さえ込まれていた佐賀西。併殺崩れの間に先制され、その1点が重く感じられ始めた矢先の、手痛い一発だった。
前日の引き分け試合では船津の後をうけ6回途中からリリーフ登板。1試合分となる9回1/3を投げ切れ味鋭いスライダーを軸に被安打2、10奪三振と伊万里農林打線を寄せ付けず嫌なムードになりかけたチームを救った。
その引き分け試合で2三振を奪い完璧に押さえ込んだ松岡に対しマウンドにあがったエースは、この試合でも嫌な流れを断ち切るはずだった。だが、甘く入ったところをバットを一握り短くもった松岡に捉えられ、試合のペースを佐賀西へと引き寄せることはできなかった。
昨年の準々決勝では北方悠誠(横浜DeNA)を擁する唐津商との熱戦の末、引き分け。再試合で力つきた。
その試合をセンターで経験した現エースは、前日、当時のメンバーだった兄•清一、中村唐十郎らから再試合の戦いのアドバイスを受け、先輩たちの悔しい思いも引き継いだ。その先輩たちがスタンドから見守るなか、2年続けての準々決勝での再試合、あの敗戦から成長した姿をみせたいという強い思いで挑んだマウンンドだったが、だがその思いはかなえられなかった。
手痛い一発を浴び、「すべて私の責任」と敗戦の責を背負い込んだ重田に対し、指揮官は、「やんちゃ坊主だった重田はエースらしく、自分をコントロールできるようになった。1年生のキャッチャー古賀をはじめチームを良く引っ張った。成長した」とエースをかばった。
(文=藤吉ミチオ)