百合丘vs藤沢総合
歯切れの良い左腕対決
どんよりとした空模様で、時折小雨も落ちてくるという悪コンディション。それでも人工芝の[stadium]横浜スタジアム[/stadium]は、試合進行には影響なく進んだ。試合も、両チームの左腕投手が、それぞれの持ち味を出して、テンポよく歯切れのいい投手戦となった。空模様とは裏腹に、非常に心地いい展開だった。
一年生の夏から大会のマウンドに登っている百合丘の佐々木凌貴は最終学年を迎えて、体重も12kgアップして挑む最後の夏となった。自分自身でもいろいろな投手を見ながら研究しているというが、「自分は真っすぐで押していかれるような投手ではないと思うので、どれだけ球の出所が見にくくなるかということを考えながら工夫してきました。ウエートも増えたこともあるのですけれども、ここへ来てスライダーのキレもよくなってきたと思います」と自己分析している。
その投球が、この日は冴えまくって、終わってみたら藤沢総合打線に対して散発の6安打。連打を許さない落ち着いた投球は安定感があった。5回、7回の三塁まで進められたピンチには三振でピシっと抑えるところにも佐々木の真骨頂があったといえよう。ここ一番というところで、どういう投球を組み立てていくのがいいのかというところを理解しているクレバーさも特徴だと言っていいだろう。
小池健一監督も、「(佐々木が)昨年から一番成長したところといえば、球威とか球種ということよりも、自分のリズムを作れて、味方が点をとってくれるピッチングが出来るようになったことです」というように、投球のリズムのよさが光った。
また、佐々木のキレのいいスライダーを捕手の中村賢臣が後逸することなく、しっかりと受け止めていたことも大きかった。昨年までは、その後逸で失点したり、それを恐れてスライダーを投げ切れなくて負けていくというケースも目立った。それだけに、小池監督は中村捕手の成長も高く評価していた。
その百合丘は佐々木が投げる前の1回に、敵失に乗じて好機を得ると猪之良謙志のセンター前ヒットで先制。さらに、1、2回を佐々木投手が3人ずつで抑えて迎えた3回、一番からの好打順で大谷翼がレフト前ヒットで出ると、エンドランを仕掛けて二塁へ進むとボークもあって三塁へ進んだ後、猪之良がセンターオーバーの三塁打を放ち加点した。この流れはまさに、守りから攻撃へリズムを作って導いたものだった。
しかし、その後は百合丘打線も藤沢総合の背番号11の二年生ながらエース格の香月俊太郎を打ちきれず膠着状態となった。
香月投手はカーブも大きく、上手にタイミングを外していた。ストレートも見た目以上に伸びており、百合丘各打者も詰まらされることが多かった。ただ、藤沢総合も得点機をつかめないまま9回となり、百合丘が内野安打と死球で好機を作ると、失策絡みで2点が入った。結果としては、ここまで踏ん張っていた香月にとっては、いくらか不運な形の失点にもなってしまった。
結果的には藤沢総合は完敗という形になってしまった。それでも、香月にとっては、この日の好投は大きな自信になったのではないだろうか。秋以降に楽しみを感じさせてくれるチームでもあった。
百合丘は、昨年は慶應義塾に惜敗。毎年、好チームを作り上げてくることでは定評がある。2001年春には関東大会進出という実績もあるが、夏はここまで勝ち上がってきたことは初めてである。
OBで他に仕事をしながら卒業以来、30年近くチームを見続けてきている宮地洋人総監督は、「みんなが打てない時に打つヤツがでてくるというのは、いい流れです。夏は、ここまで来たことはないですから、これからはもう一つ上へ行きたいですね」と、後輩たちに期待を託していた。
(文=手束仁)