龍谷大平安vs山城
自分たちの、全力プレーは負けていない!
5回を終えて3対9。
打倒・龍谷大平安を目指した山城の野望はもはや消えかけていた。
しかし、それでも山城ナインは誰も下を向いていなかった。
むしろ、敗色濃厚となり、一段とアドレナリンが出てきたかのようだった。
「絶対、後悔だけはしやんとこう(しないでおこう)と思いました。簡単には終われない。みんなで声を掛け合ったというわけではないのですが、自然と雰囲気が盛り上がった」と主将の野渕慎也は言った。
山城にとって、この日の対戦は特別な意味を持っていた。
昨夏の京都大会で、ベスト8に進出した山城は手にしかけていた獲物を目前で逃してしまっていたからだ。
この日の対戦相手だった龍谷大平安を相手に7回を終えて5対2でリード。
しかし、王者を追い詰めながら、8回裏に6失点を喫し、涙を飲んだのだ。
「正直、去年はエースに頼り切ったチームでした。しかし、今年はその試合に出ていたメンバーが5人残っていましたし、勝ちたいと思って臨んだ」と手島健守監督が言えば、野渕主将も「最初から勝つつもりだったし、自信もありました。3年間の練習の成果を出そうと思った」と試合に挑んでいた。
試合は1回表、4番松田一将のタイムリー二塁打で1点を先制するも、その裏、龍谷大平安の主軸にあっさりひっくり返された。その後、龍谷大平安の守備の乱れで同点には追いつくも、じりじりと離されていった。
先発した2年生左腕・芝田有毅は長身からのストレートでグイグイと押していったが、1回裏にボークを取られたことが大きく響いた。序盤のけん制でボークを取られたとで、怖がってしまったのだ。
芝田の戸惑いを尻目に、龍谷大平安はたたみかけてきた。3、4回で1個ずつの盗塁を献上。それ以外でも、早々にスタートを切られた。芝田は4回から気を取り直し、牽制から二度走者を誘い出しているから、龍谷大平安の攻撃が隙をついたのではなく、漬け込んできたのがわかる。
手島監督は「ジャッジについてはこちらからどうこういうことじゃない」と意に介さなかったが、高校生のメンタル的な部分を考えれば、尾を引く序盤のボーク判定だった。
それでも、山城ナインが素晴らしかったのは下を向かなかったことだ。
5回裏には3失点、計9失点となったが、龍谷大平安の1番井澤凌一朗がセンター越えをはなった際には、見事な中継で井澤を三塁で刺した。センター~ショート~サードへ渡った、そのプレーの質を見れば、いかに山城が鍛え上げられたチームだというのが想像できた。
6回からは、さらにエンジンの回転数をあげた。攻撃面では必死に食らいつき、毎回、走者を出した。守っては、二番手で登板した五丿井亮太(2年)が打たせて取ると、バックがしっかり守った。7回裏には見事な併殺を決め、8回裏のピンチも、しっかり乗り切った。
「昨年、(龍谷大)平安に敗れてからこの一年間、選手らは本当によく練習しました。今までも練習するチームでしたが、そのさらに上をいくことができました。だからこそ、勝たせてやりたかったんですけど、ほんま、この子らはよくがんばったと思います。普通、この展開なら、ずるずるとコールド負けしてしまうものですが、9点目を取られてから、最後まで戦ったのは彼らの成長だと思う」
今年も龍谷大平安に勝つことはできなかった。
返り討ちを食らった形だが、中身は昨年よりも濃いものだった。
手島監督は「ディフェンスにしても攻撃面にしてもやりようがあった。僕がもっと動いてやれば違っていた。監督の責任」と敗戦を背負ったが、一年を経て、これだけのチームを作ってきたのだ。見事なチーム作りだったと言えるだろう。
試合後、山城ナインのほとんどが大粒の涙を流していた。
あの涙は本気で勝つつもりでいたからこそ涙だった。敗戦という選択肢をもって試合に臨んでいたものにはない、本気の涙だった。彼らの想いの深さを感じたものだ。
主将の野渕が最後にこう締めた。
「僕らにとって、龍谷大平安は雲の上の存在でした。でも、今日はそういうのは全然なかった。この1年間、監督を越えようと思ってやってきました。監督の想像以上に人間性のあるチームになろう、と。そうなれたかは分からないですけど、自分たちの、全力プレーは龍谷大平安にも負けていなかったと思う」
1年越しの山城の挑戦はここで一端、終わりを告げる。
だが、チームとしての戦いはこれからも続く。
あれから1年、そして、さらに1年――と。
また山城ナインの挑戦が始まるのだ。
(文=氏原英明)