試合レポート

坂戸西vs南稜

2012.07.16

熱闘3時間15分!

 この春季大会では、埼玉県では公立校旋風が吹き荒れた。そんな中で、あれよあれよと初優勝を果たすなど、その旋風の先頭を切っていたのが埼玉南稜だ。
背番号10をつけた武井和真が学生コーチとして試合前のシートノックをしたり、三塁コーチャースボックスから攻撃のサインを出したりと、トリッキーなことをいろいろ試みてきている。それが、上手くハマっていって選手たちも意識がより高くなっていった。

坂戸西は、2年前のチームは秋、春ともにベスト4に進出した。今の3年生は、その結果を見て入ってきた生徒たちである。いずれも浦和学院の前に屈してきただけに、野中祐之監督は、「埼玉県で上に行くには、絶対に浦和学院を倒さなくてはいけない」という意識は非常に強い。いつも、打倒浦学を意識しながら、チームを作ってきている。全国レベルの男子バレーをはじめ、学校全体で部活動が盛んなだけに、野球部もそう簡単に負けるわけにはいかない。

野中監督は試合前には、「公立校の埼玉県ナンバー1を決める戦いになるんだから、負けるわけにはいかないぞ」ということを選手たちに伝えて、意識を高めさせていた。
そんな両校の対戦。ちょっと玄人受けする、序盤の好カードでもあったが、期待にたがわぬ好試合となった。

先制したのは埼玉南稜で、1回には1年生ながら1番を打つ菅原篤人が二塁打を放つと、内野ゴロ送球ミスであっさりと先制した。しかし、坂戸西の先発左腕長谷川翔太は動揺することなく、後続はしっかりと抑えた。

そして3回、今度は坂戸西が相手送球ミスなどで好機を得て、一死二、三塁から二番石丸達郎は一塁線に巧みに打球を転がす、セーフティースクイズだったが、これが安打になって自らも生きた。石丸は二塁へ盗塁を決めて二、三塁としてから、湯川昌輝がセンターへ2点タイムリーを放って逆転。


しかし、埼玉南稜もそれで萎えてしまうようなチームではない。「早い回に追いつきたい」という気持ちの南稜はその裏は、安打の走者がことごとく牽制死と、やや焦りがあるのかなと思えるようなところもあったが、積極性失せてはいなかった。
5回に四球の走者をバントで進めると、8番中田敬大がレフトへヒットを放ち1点差。上農拳大もライト前ヒットで続く。ここで坂戸西は長谷川を諦めて変則左腕の伊藤凌を送り込む。失策もあって満塁となったところで、埼玉南稜はスクイズで同点とした。

その後は、粘り合い、凌ぎ合いとなって、延長に突入していった。坂戸西は、日向大介を1イニング挟んで7回から2年生の宇津木巧がリリーフのマウンドを担った。南稜は、ほぼ予定通りの継投で下手投げの高瀬直規に代えて8回から力のある佐野充を投入。延長に突入して試合は、両投手の投げ合いとなっていった。

10回は坂戸西が一死一、二塁、二死満塁まで攻めるがあと一本が出ず。延長は進んでいった。
そして迎えた12回、坂戸西は先頭の三番湯川が右中間への二塁打で出塁すると、一死後途中出場していた藤原光弘がセンターへ弾き返してしてつなぐ。藤原は、メンバー発表ぎりぎりになって入った選手だ。一、三塁となってここが勝負どころと見た野中監督は、2ボール2ストライクから板橋宗親にスクイズを指示して決勝点を奪った。
さらに、四球後に宇津木もライトへタイムリー安打を放ち、この回2点が入った。

その裏、宇津木は気迫のこもった投球で追いすがる埼玉南稜打線を三者凡退で抑えた。こうして、3時間15分に及ぶ大熱戦は決着がついた。
もちろん、内容を指摘すれば失策絡みの得点もあったし、走塁ミスや判断ミスもあったかもしれない。しかし、そうしたものを超えたお互いの思いがぶつかり合った熱い試合となった。結果的には、春の県大会王者でAシードの埼玉南稜が敗退で波乱ということになった。


春の結果があった分だけ、埼玉南稜の選手たちには、注目も集まった。それをまったく意識していなかったというのは嘘になるだろう。それだけに、敗戦という結果は重くのしかかった。遠山監督も、最後の挨拶では涙に暮れていた。
「本当に、本気でコイツらを甲子園に連れて行きたいと思いました。それだけ、本当に良いチームでした。それが出来なくて、悔しいです。残念です」と、応援に来てくれた人たちに挨拶をしていた。その声も、涙によって途切れがちだった。そこに、このチームに賭けた、若い指揮官の思いも感じられた。

春まで主将としてチームを引っ張り、学生コーチとして遠山監督の意思を伝える役割を担っていた武井は、「悔しいという言葉を使うことが申し訳ないくらいです。(遠山)先生の考えも、伝えきれませんでした。サインミスもありました。応援に来てくれた人たちにも謝りたい気持ちです」と、涙をこらえていた。しかし、この春から夏へかけて、埼玉南稜の存在が埼玉県の高校野球にフレッシュな風を吹かせたことだけは確かである。

冷静になって遠山監督は、「春の戦い方と夏の戦い方が違うということを改めて知らされました。春に勝ったチームがこういうふうにして負けていくんだなということを学ばされました。また、この夏から違うチームを作っていきます」と、高校球児のように泣き崩れた表情から、冷静な大人の顔に戻っていた。

大熱戦を制した野中監督は、「監督として采配ミスがいくつかありました。前半にもう少し点が取れたかもしれませんでしたが、焦りすぎました。それでも投手は、それぞれが役割を果たして、よく投げてくれました」と、投手陣の粘りを評価していた。

(文=手束仁)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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