試合レポート

帝京vs修徳

2012.07.13

理想的のゲームだったからこそ…

「理想通りのゲームでした」

修徳・阿保暢彦監督はそう試合をふりかえった。
敗れはしたものの、修徳にとって、前半は「これしかない」という試合展開だった。

昨夏も帝京と対戦し、0対8の7回コールドゲームで敗戦。当時の帝京エース・伊藤拓郎(現横浜DeNA)に参考記録ながらノーヒットノーランを記録されている。今年も第1シードの帝京に対し、修徳はノーシード。

ただ、帝京はこの試合が初戦だが、修徳は3試合目だ。
阿保監督は、「ウチに勝ち目があるとしたら、帝京の初戦しかない。向こうは硬くなりますから」と話す。
そして、この日はじゃんけんに負けて先攻だったが、勝っても先攻を選ぶつもりだった。

修徳は狙い通り、1回に先制点を挙げる。
二死一塁から木村翔太(3年)のサードゴロを帝京・高山裕太(3年)が一塁へ悪送球。一、三塁と好機が広がると、五番・岩谷淳(3年)がレフト前にタイムリーを放った。さらに、マウンドの渡邉隆太郎(3年)は制球が定まらず、続く六番の行方大勝(3年)のカウントは3ボール。
ここで、行方は打って出る。4球目を強振するが、打球は投手ゴロとなり、1点止まりに終わった。
初回の渡邉は23球中、ストライクは半分以下の10球。もったいないように映ったが、阿保監督はうなずいていた。

「練習から0-3(3ボール0ストライク)はヒッティングだとやってきました。(行方は)チャンスに強い子ですし、(七番の)ピッチャーに回すよりはいい。一年間やってきたので悔いはないです」

この攻撃について、帝京のキャッチャー・石川亮(2年)もこう言っていた。
「攻めてきていたので、自分的には怖かったです」

修徳は3回にも先頭の山下竜治(2年)がレフトへ本塁打。リードを2点に広げる。
「渡邉君の配球を見ると、右バッターには内、左バッターには外だったんです。(右打者の)内にどんどん来たのを狙っていけたのがよかった」と話した阿保監督。
ここまでは完全に修徳ペースだった。


ところが、3回裏に1点を返されると、雲行きがあやしくなる。

4回から渡邉の配球が変わったのだ。右打者に対しての初球やカウント球に外のスプリットを多用。これにより、3回までに4安打を記録していた修徳打線が、4回から8回までの3イニングで3安打と当たりが止まったのだ。
「向こうの早打ちはわかっていました。スプリットにはまったくあってなかったし、ポンポン上げてくれるのかなと思いました」とキャッチャーの石川は説明する。

石川の言葉にもあるように、この日の修徳打線はフライアウトが目立った。三振と走塁死、併殺で封殺された走者を除く23アウトのうち、フライアウトは16もある(この他はライナーが1、ゴロが6)。
「フライはエラーしないので……」と阿保監督も言ったように、ゴロならエラーを誘う可能性が高くなる。[stadium]神宮[/stadium]の人工芝は高く跳ねるため、内野安打にもなりやすい。

だが、それだけではない。フライを打つのは、この他にもマイナス面が大きかった。
理由は、帝京の守備にある。

初戦の緊張からか、帝京ナインはノックから悪送球を連発。特に外野陣は、キャッチャーの石川も「今日はひどかった」と認めたほどで、全送球のうち半分以上は捕手やサードが捕れない高く逸れたものだった。

試合でも、1回にサードの高山が悪送球。その他にもライト前安打を処理した金久保亮のセカンドへの返球が逸れたり、記録には残らないが石川の三塁送球が逸れる場面もあった。全体的に、とにかく野手の送球が不安定だったのだ。

相手に送球させるためには、ゴロを打つのがもっとも有効。必ず送球しなければいけないからだ。出塁後は、足を使うこと。盗塁はもちろん、積極的に次の塁を狙うことで、送球させる場面を作ることができる。
4回以降、内野ゴロ以外で相手に送球させたのは、6回二死二塁から舘亮平(2年)のライト前ヒットで二塁走者の行方が本塁を突いた場面だけだった。それだけに、走塁を使ってもっと投げさせていれば……と惜しまれる。

ちなみに、この場面は金久保の好返球でタッチアウトに終わった。行方の二塁からの走塁タイムは6秒95。悪いタイムではないが、二死であること、走りやすい人工芝であることを考えれば、やや遅いと言わざるをえない。間一髪セーフになれるタイミングだった。

とはいえ、9回二死走者なしと追い込まれてから3連打で逆転した修徳の粘りは見事だった。
特に二死二塁、2ボール2ストライクから二番の森田寛之輔(2年)が放ったタイムリーは、外に落ちるスプリットを拾い、高いバウンドでセンター前に抜けたもの。この打撃が中盤からできていれば……と思わせるしぶとい打撃だった。

「去年は帝京というだけで圧倒されていた。身体が大きい、打球が速いというのにびっくりして何もできなかったので、今年は、『技術じゃないんだ』と言い続けてきました。(気持ちの弱さを見せる選手は)メンバーを外したり、合宿を外したりもした。9回は気持ちで逆転してくれたと思います」と阿保監督は選手たちを讃えた。

 それだけに――。


勝てなかったことが惜しまれる。

第1シードの帝京とはいえ、気持ちの弱さは何度も垣間見られた。エースの渡邉は9回二死無走者から3連打を浴びた。昨夏の甲子園2回戦八幡商戦で9回一死から満塁本塁打などで逆転された場面を思い出させる光景だった。
そのイニングには、二死二塁から暴投で三進した走者を刺そうと、捕手の石川が三塁へ悪送球。レフトのカバーで事なきを得たが、まだ1点リードしており、帝京は裏の攻撃。そこまで慌てる場面ではない。
「自分のメンタルの弱さです。投げてもセーフ。ランナーを見ながらプレーしていれば……。焦っていました」と石川。

同点とされた後の二死一塁ではレフト左前へのフライに谷田がダイビング。グラブで大きくはじく間に、一塁走者の生還を許した。9回裏の攻撃を残す帝京は、同点で終われば有利な状況は変わらない。二死一塁は長打警戒の場面。シングルヒットで止めていれば、何も問題はなかった。

「観客と(打球が)かぶって見えなかった。悔いが残らないようにと思って飛び込みました。余計なことをしてしまった。その後に打ててよかったです(笑)」(谷田)

帝京のネームバリューに加え、身体は大きい。甲子園経験もある。相手からすればオーラを感じるかもしれない。だが、帝京の選手たちも同じ高校生なのだ。自分たちと同じようにミスもするし、焦りもする。それを少しでもわかって戦えていれば……。
阿保監督の言う「理想のゲーム」だったからこそ、惜しまれる試合、勝てた試合。“修徳健在”をアピールする絶好のチャンスは、あと一歩のところでするりと逃げていった。

(文=田尻賢誉)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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