試合レポート

智辯学園vs天理

2012.05.19

智辯学園vs天理 | 高校野球ドットコム 

小野耀平投手(智辯学園)

最大のライバルと対戦して味わえるもの

ライバル校同士の対決は、智弁学園が13対4で天理に圧勝した。

昨秋県大会準決勝、同近畿大会決勝に続く3度目の対戦だったが、2連勝していた智弁学園に、気の緩みは感じられない。小坂将商監督は言う。
 
「秋に2回勝っていますが、今の生徒らが1年の時、決勝天理にぼこぼこ(1対14)にやられている。あの悔しさを忘れるなと生徒たちに言って、今日は臨みました」。
 
序盤の好機であと一本が出ず、苦しい試合展開をするあたりは相変わらずだが、一度、火が付いたら止まらない、智弁学園の終盤の集中打は見事というほかない。

ただ、この試合は、智弁学園が三たび天理に勝ったというだけの試合ではない。
この1年、あるいは、昨秋以降から、智弁学園の成長を見た試合でもあったからだ。

ポイントは二つ。
一つ目は先発した小野耀平のピッチングだ。
実は、小野は天理戦での因縁が深い。というのも、1年生の秋、決勝天理と対戦した時に、小野が試合前に先発を直訴したという経緯がある。鳴り物入りで入り、1年ですでにチームの柱になっていたエース青山大紀という存在いたというのに、「天理戦では僕に」と小野は言ったのだ。
もちろん、指揮官が受けるはずはない。
「青山が打たれたら、出してやる」。
結局、青山は天理打線を完封した。

そして、昨春県大会(準決勝)の天理戦、マウンドに立ったのは小野だった。秋の経緯を経ての先発だった

ただ、この時の小野には指揮官からの制約がついていた。

「スライダーを2球でも続けて投げたら、その時点で代えるからな」。
小野の持ち味は手元で鋭くキレるスライダーだ。「他の人と比較しても自分のスライダーの方が上」。それくらいに思っている。だが一方で、スライダーに頼るきらいがあった。スライダーに頼るあまり、ストレートが走らない、終盤になると球威切れがガクッと落ちる、小野の欠点の一つだった。

小野は当時、仕方なく、ストレート一本で勝負。当然、打ちこまれた。
「打たれた時は、やっぱりアカンやんと思いましたね。スライダーを投げたろかと思いましたけど、あの時、ストレート一本で勝負したことで、自分のストレートと向き合えた。あの時から、ストレートを磨くようになった」。
昨夏、秋の活躍は言うまでもない。一つの転機になった試合であったのだ。

この日の試合、小野に制約はつかなかった。思い切り腕を振り、天理打線と対峙した。
制球が乱れた分、4失点をしたが9回を被安打7、奪三振11と力投を見せたのだ。
「去年はストレート一本だったというのもありましたけど、今日は、自分の中で、ゆったり投げられた。いっぱいいっぱいで投げてたのが、軽く投げてもキレの良いストレートを投げられましたし、スプリットも良いところで決まった」。
序盤あるいは中盤。接戦となっていた場面では、以前なら青山の救援を仰ぐようなことはあったが、今の小野にはそれが必要なかった。
「二枚看板」の片りんではなく、実力を見せつけたピッチングだった。


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中道勝士主将(智辯学園)

もうひとつのポイント。

それは「1番・浦野純也」だ。
思い切りの良い打撃と俊足で知られる浦野は1番打者に最適なバッターだ。入学当初から、首脳陣の期待もあったし、中学時代に1番を打っていた自身も、それを望んでいた。

しかし、なかなか機能しない。

下級生でレギュラーだった昨夏は2番という打順は納得できたが、昨秋も甘んじてしまっていた。
「昨秋も1番を打たせてもらっていた時期があったんですけど、2番になるだろうなという思いをもちながら、打っていたような気がします」。
昨秋、智弁学園は県大会の序盤で思うように打線がつながらなかった。そこで真っ先に手を加えられたのが、1番だった。このとき、浦野は2番に打順を下げられていた。「今は最強の2番打者になれといわれているんで、それを目指していますけど、1番を打ちたいという気持ちはある」。
浦野は選抜大会前には、そう語っていたものだ。

選抜大会が終わると、浦野は1番に座った。それも、「1試合ダメでも、監督は使い続けてくれる」(浦野)。信頼されての起用になったのだ。

この日の浦野は絶好調だった。
1回、天理先発・井上大貴の2球目を叩く、右中間破る三塁打。犠牲フライで先制ホームを踏んだ。
2打席は遊撃ライナーだったが3打席目には痛烈なセンター前ヒットを放ち、中道のタイムリーで生還した。4打席目は足を生かしての内野安打。1番打者として十分な役割をこなした。
「前の試合ではタコ(凡退)ったんですけど、そのあとの練習試合で4安打を打てた。自分の中では調子が悪いわけでも良いわけでもないんですけど、監督が使い続けてくれるんで、何とかしたい気持だった。今日は、甘いところに来たら、初球からでも行こうと思っていた。良い感じで打てました」と浦野自身も手応えを感じているようだった。

「1番・浦野」は指揮官も、願っていたオーダーだという。
「センバツで下位打線が全然アカンくて、厚みが必要って考えた時に、中道を下げることだった。1番に浦野を入れて、山口(悠紀)も良いバッターだし2番、5、6番に青山をおける」。
3番になった主将の中道勝士も、打順変更を歓迎している。
「正直、楽になりました。1番が嫌とかそういうわけではありませんけど、3番になって後ろにいいバッターがいるし、繋げばいいだけと思って打席に立てばいいんで、楽ですね。攻撃にも幅が出てきたと思います」。

天理を相手にしての、小野の完投勝利と3安打4得点の1番・浦野。
13対4のスコアは、もちろん圧勝だが、智弁学園が得たものはかなり大きい。
 

(文=氏原英明)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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