試合レポート

帝京vs都立片倉

2012.04.19

片倉 充実の敗戦

 14日に[stadium]神宮第二[/stadium]で行われる予定だった2カードが18日の[stadium]駒沢球場[/stadium]に振り替えられた。第1試合の東海大高輪台都立八王子北東海大高輪台が勝ち、ベスト8。2試合目は帝京都立片倉都立片倉はプロ注目の右腕がいる。金井 貴之。最速145キロを計測すると言われる本格派右腕である。金井を見るためにNPB3球団のスカウトが[stadium]駒沢球場[/stadium]へ足を運んでいた。

 注目の立ち上がり。まず先頭の菊地をストレートで見逃し三振。堤には四球を出し、石倉 嵩也もストレートで空振り三振に打ち取り、4番渡邊 隆太郎には四球を出して、2死1,2塁のピンチを迎えたが、5番木部をライトフライに打ち取り、無失点で切り抜けた。

 サイズは179センチ81キロ。パンフレットには88キロと記載されているが、本人から81キロに絞ったと話してくれた。腰回りが大きく、実に恵まれた体格をしている。セットポジションから始動し、左足を勢いよく足を上げて、勢い良く踏み出して、左腕がやや遊び、力強い腕の振りから投げ込む投球フォーム。一番速いストレートを投げられるフォームを追求した結果、今のフォームに落ち着いた。

 彼のセールスポイントであるストレート。ズシッと来るストレートは球威がある。特に右打者の外角ストレート・左打者のインコースストレートは素晴らしいストレートを投げている。球速は135キロ前後・最速142キロを計測。狙ってストレートで空振りを奪える回転数のあるストレートではなく、あくまで手元で押し込んで詰まらせる投手であろう。ただ意外にタイミングが取りづらいのか、帝京の打者は彼のストレートに結構、空振りしていた。彼のストレートをまともに打ち返せる打者はいなかった。気になるコントロールだが、身体全体を回旋させ、ぶん回す腕の振りをしているので、微妙な制球力を欠く。身体が突っ込むとボールが抜けやすい。フォームの乱れが顕著に出た3回の表。四球からピンチを招き、二死満塁で5番木部を迎えた。4番渡邊 隆太郎を歩かして、木部で勝負して打ち取っていく公算だった、しかし木部に甘く入ったストレートを捉えられ、左中間を破る走者一掃の二塁打を浴び、3失点。
「打ち取るつもりだったのに、甘く入ってしまい申し訳ない」
と3回の二塁打を悔やんだ。


 更に5回の表、1死1,2塁のピンチで4番渡邊 隆太郎に全力投球。ここで最速140キロ・142キロを連発し、空振り三振に打ち取った。5番木部をショートゴロに打ち取ったが、ショートの失策で、二死満塁。6番伊集院に直球を捉えられ、左中間を破る二塁打で、2点を追加され、5対0。ここで投手交代。左横手の小田嶋 冶直人が登板する。金井が公式戦登板するまでは背番号1をつけていた左腕だ。小田嶋も個人的には面白い素材だ。プロのスカウトとしては荒削りながら、140キロを超える速球を投げる金井に惹かれるだろう。もちろん私も彼の才能に惹かれるが、小田嶋も惹かれるものがある。

184センチ69キロの長身。そして手足も長く、身のこなしも柔らかく、素材の良さを感じる。左肘を折り畳んで身体に近い軌道でピュッと腕を振っていく。球速は120キロ前後だが、右打者、左打者問わず両サイドへ突けるのが魅力的。特に左打者の膝もとに落ちるスクリューに帝京の左打者が苦しんでいた。5回の裏二死から登板し、8回まで被安打2奪三振2四球1無失点の好投。自分の持ち味を発揮した試合であった。

好投する小田嶋を援護したい片倉打線。しかし帝京渡邉 隆太郎が立ちふさがる。180センチ89キロと高校生離れした恵まれた体格。左肘をコンパクトに畳んで、上から振り下ろすストレートは135キロ前後。角度・切れを兼ね備えたストレートはコントロール良く決まっており、右打者にはストレートは内角、チェンジアップを外角に落とす配球。左打者には内外角に投げ分け、外角に逃げるスライダーを決め球として付け入る隙を与えないピッチングを見せている。高校生としてこれほどのピッチングが出来る左腕も中々いない。このままでは完封かと思った。


 だが8回の裏。1番鳥巣が四球で出塁。2番今岡はバスターエンドラン。打球はレフト前へ落ちるヒットで無死1,2塁のチャンスを作って、3番小林は犠打。しかし投手の正面に転がり、三塁封殺。一死1,2塁となって4番今井。今井は高めに抜けるスライダーを逃さなかった。打球は右中間を破る三塁打で、2点を返す。2点取って一気に活気づく片倉ベンチだったが、後続を抑えられ、2点止まり。

 5対2と追い上げて、9回の表。再び金井がマウンドに登った。

「打たれた借りは返すつもりで投げました」
 金井 貴之は1番から始まる上位打線に立ち向かった。最後の力を振り絞るように腕を振りに行った。5回よりも威力が増したストレートで帝京打線を圧倒する。まず1番金久保を2-2から外角ストレートで空振り三振。2番堤もストレートで詰まらせピッチャーゴロ。そして3番石倉 嵩也は1-2から内角ストレートへズバリと決まるストレートで見逃し三振。三振を奪った瞬間、金井 貴之は吠えた。やられたらやり返す。上位打線から始まる9回の表をぴしゃりと三者凡退に抑え、有言実行を果たした。

 追いつきたい片倉。しかし渡邊 隆太郎の前に三者凡退。帝京がベスト8進出を果たした。


 負けはしたが、5対2の善戦。何が良かったといえば、金井 貴之は逃げの投球をせず、打者に立ち向かっていったこと。5失点したとはいえ、この負けは次に繋がっていくだろう。試合後、金井 貴之の顔は明るかった。帝京相手にでもやれるという自信に満ちた顔つきだった。だからこそ今回の5失点は悔やまれる。夏までの課題として

「ストレートのスピードをレベルアップしたい気持ちはありますが、やはりコントロール。夏までコントロールを磨いていきたいです」
自分の思い通りのストレートを投げられれば、帝京相手にも通用することを自信に持ち、しかしストレートの勢いに過信過ぎてコントロールミスすれば、打ち込まれる怖さも味わった。9回のマウンド時に登った時に、気持ちを高めて抑えられるマウンド度胸の良さはまさに投手向き。上のレベルを想定したら、交わすピッチングも覚えることも必要だろう。

 5回で降板した時はまだ粗削りな投手だなという印象を受けた。9回でこの試合で一番素晴らしいストレートを投げて、三者凡退で抑えるピッチングは荒削りでも、メンタリティが強い投手と印象付け、夏へ大きな希望を抱きたくなるピッチングであった。負けはしたが、大きな収穫を得た充実な敗戦だったのではないだろうか。

 5対2と善戦した都立片倉。夏では西東京の強豪を脅かす都立として、都立ファンの期待を背負って、大暴れすることを期待したい。その先頭に立つのが金井 貴之。ぜひ覚えてほしいピッチャーだ。

(文=河嶋宗一)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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