大阪桐蔭vs健大高崎
健大高崎の足に立ちはだかった大阪桐蔭バッテリーの牙城
健大高崎が勝つにはこの流れしかなかった。0対1とリードを許しながら、7回終了時点で差はわずか1点。大阪桐蔭の超高校級右腕、藤浪晋太郎(右投右打・197/88)から3点奪うことは考えづらい。1対0か2対1か、健大高崎が勝つにはこのスコアしか考えられず、そういう流れになっていた。
藤浪は結果的に8安打されているが、デキとしてはこの試合が一番よかったのではないか。ストレートも変化球もほとんど高く浮かず、低めに決まっていた。さらに内、外のコーナーワークがよく、これに投球間隔4~5秒でテンポよく投げ込んでいて、とても付け入るスキが見えなかった。
塁に出たら盗塁というのが健大高崎の準々決勝までの得点パターンで、この試合でも同様の攻めが見られると思っていたが、大阪桐蔭バッテリーの牙城は思いのほか堅かった。
藤浪が一塁に走者を背負ったときのクイックタイムは通常1.14~1.20秒と速く、捕手森友哉(2年・右投左打・169/80)の二塁送球タイムは2.06秒(花巻東戦で1回に二盗を阻止したときの二塁送球タイム)~2.08秒(浦和学院戦で5回に二盗を阻止したときの二塁送球タイム)である。
<1.20秒(藤浪のクイックタイム)+2.08秒(森の二塁送球タイム)=3.28秒>
藤浪―森のバッテリーから二盗を成功させるためには3.28秒以内の速さが必要になる、ということである。ところが、高校生がこのタイムで走るのは簡単ではない。参考までに屈指の俊足、健大高崎の竹内司(中堅手・右投左打・178/70)が今大会で記録した二盗の所要タイムは次の通りだ。
◇3.25秒(神村学園戦の5回表)※刺されている
◇3.30秒(鳴門戦の1回表)
◇3.35秒(天理戦の9回表)
3.28秒以内は1回あるだけ。つまり、竹内が藤浪―森のバッテリーから二盗を成功する確率は33パーセント、ということになる。改めて難しさがわかる。
しかし、クイックタイム1.14~1.20秒はストレートのときだけで、変化球のときは1.20~1.37秒ほどかかる。つまり変化球のときを狙って二盗を企図すれば何とかなるのではないか。健大高崎も同様のことを考えていて、2回に中前打で出塁した神戸和貴(右投右打・173/73)が二盗を企てたときの球種はスライダーで、このときの藤浪のクイックタイムは1.28秒だった。
<1.28秒+2.08秒=3.36秒>
このタイムなら、竹内クラスの俊足は100パーセントの確率で二盗を成功させることができる。ところが神戸はアウトになった。それも間一髪というタイミングでなく、誰が見ても完全なアウトである。これで健大高崎ベンチの空気が一気に沈滞した。
天理戦7個、神村学園戦4個、鳴門戦5個を記録した韋駄天チームが、結果的に1つも盗塁を記録できなかったのである。勝負のキーポイントはここにあったと思う。
それでも勝機はまだあるように思えた。大阪桐蔭打線が想像以上に健大高崎の左腕、三木敬太(左投左打・170/68)を打ちあぐんでいたからだ。三木が1点のまま抑えてくれれば勝機は見えてくるかもしれない。実際8回表に竹内が藤浪の外角ストレートをレフトポール際へ放り込み、勝負はわからなくなった。
しかし、そんな思いをあざ笑うように大阪桐蔭はその裏、3番森が左中間へ、5番笠松悠哉(2年・三塁手・179/74)がレフトにホームランを放り込み、勝負を決めた。健大高崎は機動力という持ち味を発揮できなかった時点で、もはや勝機を見出すことはできなくなっていたのである。
(文=小関順二)