大阪桐蔭vs浦和学院
今大会ナンバーワンの好試合
準々決勝初日の第1試合、大阪桐蔭対浦和学院戦は今大会ナンバーワンの好試合になった。スタンドを埋めた多くの観客は近畿最後の砦となった大阪桐蔭の応援に回り、首都圏の浦和学院はアウエーの逆風の中に置かれた。“好試合”とは正義の側が勝って、敵役が負けるから初めてそう形容できる。浦和学院が勝っていれば「優勝候補の大阪桐蔭が接戦の末に敗退した」くらいのトーンで私も書いていたと思う。
先発投手は大阪桐蔭が澤田圭佑、浦和学院が山口瑠偉と、エースを温存してのスタートとなった。準決勝、決勝を見据えてのエース温存策は極めて真っ当だが、知名度の大きさを考えれば藤浪晋太郎(右投右打・197/88)を温存した大阪桐蔭より、浦和学院のほうに奮起する材料はあったかもしれない。
1回裏、浦和学院が3安打を放って先制点を取り試合をリードする。対する大阪桐蔭は6回までに出塁したのはわずか4回だけ。そのうち、4回表は遊⇒二⇒捕、5回表はエンドランがかかっていたのか一塁走者が左飛で飛び出し、左⇒一とボールが転送され併殺となる。
浦和学院は5回まで3安打、無失点と好投した山口に代えて、6回頭からエース佐藤拓也をマウンドに送る。これにはゾクッときた。打たれて投手を代える監督はいくらでもいるが、打たれていない投手を代える監督は数少ない。
浦和学院は04年夏から春・夏の甲子園大会6連敗中で、センバツ大会に限れば過去5大会、初戦敗退を続けている。いくらでもいる“打たれて代える”監督は森監督のこれまでの姿かもしれず、それを振り払って1点の虎の子をエースに託す継投策は森士監督のこの試合にかける覚悟かもしれない。
しかし、大阪桐蔭のここまでの戦い方を振り返れば、この試合展開は慣れたものだった。1回戦の花巻東戦、2回戦の九州学院戦とも6回に3点を奪って逆転しているのだ。この試合では7回に同点、8回裏に勝ち越されると9回に3安打、1四球を重ねて2点を奪って逆転している。
この9回、先頭の森友哉(2年・捕手・右投左打・169/80)が右前打を放ちながら二塁を陥れようとして憤死している。アウト・セーフが微妙なタイミングだっただけにベンチの落胆ぶりを想像したが、少なくとも選手はいけいけだった。
この日の“アンラッキーボーイ”4番小池裕也がフルカウントの末に四球を選び出塁すると、続く5番安井洸貴の左中間を破る二塁打で追いつき、2死後、白水健太の中前打で逆転した。かつてPL学園がこういう試合を数々演じてきて「逆転のPL」の異名を取ったが、大阪桐蔭にもPLに続く気配がある。
浦和学院で惜しかったのは7回の攻撃だ。3安打つらねて無死満塁にしたあと、6回からマウンドに立っている藤浪の前に7~9番が三振を喫しているのだ。前日の関東一の2年生右腕、中村祐太が徹底してストレート勝負をしたのに対して、藤浪は斜め・横の2種類のスライダーを交えた緩急でピンチを脱している。
それにしてもこのときの藤浪は迫力があった。4、5番に151キロの快速球をクリーンヒットされたのを見て、藤浪―森のバッテリーはいち早くスライダーを主体にした配球に切り替え、強打線を封じているのだ。この投球を見てはじめて藤浪に「超高校級」の冠がつき、さらにドラフト1位が約束されたと思った。
浦和学院で目立ったのはバント失敗の多さである。1回に林崎龍也、2回に吉川智也、8回に再び林崎と3回失敗が続き、バントファールも7回あった。全国の強豪校になるにはこのへんの緻密さが求められる。
(文=小関順二)